第12話
朝6時、美沙と僕は東京駅にいた。これから6時半前の新幹線に乗り、石川の金沢駅まで約3時間の旅がスタートする。
新幹線の改札をくぐり、ホームに車両がやってくるのを待つ。
右手にスーツケース、左手に朝ごはんのサンドウィッチを持った美沙は、何を考えているのだろう、険しい顔をして地面を見つめている。
いったい美沙はこの旅行になにを求めているんだろう。2人で行ったところを訪れることで僕のことを強く感じたいのか、僕のことを思い出の一つとして区切りをつけるのか。できるならば後者であってほしい。どうかこの旅行が彼女にとっていい方向に進むきっかけになりますように。そう考えながらホームにやってきた新幹線へと乗りこんだ。
金沢駅までの約3時間は車窓を流れる景色や車内の人を見ているとあっという間だった。
改札を出てすぐ、美沙はスマホを見ながら歩き出した。どうやらこのままホテルに向かうようだ。
駅を出ると、視界一杯に雪景色が飛び込んできた。都内に住んでいると見かけることのない、道路の雪を溶かすための水が吹き出していたり、都会では滅多にない気温の表示が違う土地に来たことを改めて実感させる。
美沙は白い息を吐いて、先ほどまでしていなかった手袋をはめるとホテルに向かって歩き出した。僕はその横を歩きながらいつか見た景色を思い出す。
あの時も2人東京とは比べ物にならない寒さに驚きながら早足にホテルに向かったなと懐かしくなってくる。横を見ると美沙も同じことを考えているのか周りをキョロキョロと見回しながら歩いていた。
15分ほど歩いて目的のホテルに着いたようだ。きっと最近建ったのだろう、綺麗な外装をしており、近江町市場もすぐの位置にあるなかなか良さそうなホテルだった。
美沙は手荷物とホテルに預ける荷物を分け、手続きを終えるとすぐにカメラをかけて金沢の町を観光し始めた。
はじめに向かったのは金沢城公園。名前の通り金沢城を見ることのできる大きな公園だ。城の周りにら櫓なども建っており、また自然も豊かですぐ近くを鳶が飛んでいる。金沢城を見終わりそのまま兼六園に向かった。橋を渡りそのまま入場料を払って入場する。梅の時期にはまだまだ早く、今は咲いている花もないが、積もった雪が庭園の美しさをより際立たせていた。
入ってすぐにある池を右手にゆっくりと歩く美沙は、不意に立ち止まると持っていたカメラで写真を撮り始めた。そういえば、アルバムに入っていた写真の背景とこの場所の景色はそっくりだ。美沙もそのことに気づいてここの景色を写真に収めたのかもしれない。
写真を撮り終わると美沙はまたゆっくりと歩き始めた。僕もその速度に合わせてゆっくりと進む。彼女は僕を見ることはできないけど、この瞬間、僕は確かにあの頃の空気を感じることができていた。
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