第14話

 オムライスを食べ終わったあと、美沙はしばらくの間おばあさんとなんてことない話をして時間を潰していた。どうやらこのお店の空気が気に入ったようだ。



「それじゃあそろそろ行きますね」


「はーい。また来てね」


「はい、また来ます」


「ありがとうございましたー」



 お店を出て空を見ると、先ほどまで晴れていた空にどんよりとした雲がかかってきていた。あまりにも寒かったのだろう、美沙は身震いをして早足に美術館へと向かっていった。






美術館に入館すると、チケットを並んで買い館内の見学を始めた。全体的に白い館内の中を展示に集中しながら歩いていると、ついに目玉のプールにやってきた。よくテレビや雑誌でも特集されているもので、中に入ってみると実は水は表面にしかないという有名なやつだ。


 2人でここにきた時もこのプールでふざけ合った。アルバムの中にもこの場所で撮った写真がいくつかあったはずだ。美沙もそのことをしっかり覚えているのか、プールの中と外両方からの写真を数枚ずつ撮っていた。


 美沙は気の済むまでプールの写真を撮るとそのまま美術館の出口へと向かって足を進め出した。


 美術館を出ると、本格的に雪が降り始めていた。2年前に来た時は、美術館を見終わったあとホテルに帰ってチェックインをしたが、今日も美沙はそのつもりらしく、足はホテルの方に向かっている。雪の積もった道を慎重に歩く美沙の横顔は、滑らないことに必死でどこか面白い。



「あ、滑った」



 どうやら、雪国の生まれでもない美沙にはこの道をすべらず無傷で歩くことは難しかったみたいだ。歩道の凍っている部分に足を滑らせて転んでしまった。幸い転び方がよかったのか怪我はなさそうで一安心だ。


 滑ったり転んだりしながらなんとかホテルにたどり着いてチェックインを済ませると、もらった鍵に書いてある番号の部屋に入ってとりあえず一息。外の寒さで冷え切った体が部屋の暖房で暖められて長いため息を吐いた美沙は、濡れた服から部屋着用に持ってきていたスウェットに着替えると荷物を整理するのも後回しにしてベッドに横になった。どうやら慣れない雪と寒さがなかなかこたえたらしい。目を閉じるとしばらくして寝息が聞こえてきた。


 1時間ほどすると美沙は起きて夜ご飯を食べに行くための準備をし始めた。今日はなにを食べに行くのだろうかと楽しみにしていると、スマホを見て店を探している様子。今日の行動は以前2人で来た時と全く同じものだったため、夜も同じものを食べるのかと思っていたが、どうやら違うようだ。いったいなにを食べるのだろう。自分が食べるわけでもないのに、ワクワクしている気持ちに苦笑気味に笑みが溢れてきてしまった。

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