第10話

 美沙が起きてきた音が聞こえてきた。


 どうかクローゼットが中途半端に開いてることが気づかれませんように。



「あれ、クローゼットが開いてる⋯⋯。昨日開けたっけ」



 どうやらもうバレたみたいだ。


 バレてしまったものはしょうがない。どうかそこまで気にしませんように。


 幽霊なので自分の姿は見えないが、部屋を半ば荒らしてしまったようなものなので、罪悪感がすごい。これがあまり気にしないということならば僕も罪悪感をそこまで抱かなくて済む。


 この想いが美沙に通じてくれるように、とにかく祈るしかない。



「まあいっか。昨日なんかの拍子で開いちゃったのかもしれないし」



 どうやら僕の祈りは通じたらしい。おかげで部屋を荒らしてしまったことへの罪悪感はかなり少ないものになった。



「あれ、このアルバム、こんなとこに置いたっけ?紙袋にまとめてたの思ったけど」



 どうやら僕はアムバムをしまう場所も間違えていたらしい。


 しばらくガタゴトと音が聞こえて、美沙が部屋にやってきた時には手元に昨日見たアルバムが抱えられていた。どうやら今日はあのアルバムを見ることに決めたらしい。


 朝食も食べ終わり、しばらくしてからコーヒーを入れて、アルバムを見始めた。アルバムを見ている時、美沙は終始楽しそうな笑顔で、この数週間見ることのできなかった笑顔に改めて惚れ直した。



「やっぱり美沙は笑顔が似合うな⋯⋯」



 あの頃を懐かしむように笑っている美沙を見て、いつかまた彼女が笑って過ごせる日がきてほしいと切に願う。その姿を見れるまでは僕も成仏できる気がしない。







 ふと、美沙がアルバムを見ている手を止めた。いったいどうしたのだろうと思ってそのページを見てみると、初めて2人で旅行に行った時の写真が目に入った。


 付き合い始めて1年目の12月、年内の仕事も終わり、いよいよやってくるお正月の前に2人で北陸に行った時の写真だ。見事な雪景色の日本庭園をバックに僕たち2人が幸せそうに笑っている。別の写真には、日本酒の瓶を楽しそうに持った美沙も写っている。



「この時美沙飲みすぎて二日酔いになってたよな」



 市場で海鮮丼を食べようとしたら、目当ての店がまさかの月一回の定休日で、食べれなかったり、夜ご飯におでんを食べながら飲んでホテルまでの帰り道ふらふらになりながら帰ったりしたのが懐かしい。


 そんなことを考えながら写真を見ていると、美沙が一言、



「行ってみようかな」



そう呟いた。



「はい??」

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