第2話

 目が覚めると僕は自宅のベッドに寝っ転がっていた。

 覚えているのは信号を無視して突っ込んでくるトラックと、グルグルと回る世界、そして美沙に渡すはずだった指輪が鞄から飛び出して地面に落ちている光景。



「やけにリアルな夢だな、1日のスタートとしては最悪な気分だ⋯⋯」



 そう思いながら美沙の方を見ると、悪夢を見ているかのような表情で寝ている姿。

 心配になって美沙のことを起こそうとした時、それは起こった。



「ねえ美沙、だいじょう⋯⋯え、??」



 そう言って美沙の体に伸ばした手が美沙の体をすかしたのだ。



「え、なにこれ、どういうこと?まだ夢の中にいるの??ちょっとリアルすぎて怖いんだけど」



 あまりに鮮明な光景に信じることができず、テンパってしまったが、よくよく考えればそんなことはあり得ないと、自分がまだ夢の中にいるのではないかと考えがまとまってきた。


 せっかくこんなにもリアルな夢を見てるならもっと楽しもうと、ベッドから起き上がり、家中を歩き回る。


 物をすかすことをいいことに、美沙が大事にしていて、割ってしまったら大変なことになるステンドグラスのライトにパンチをしてみたり、リビングから美沙の寝ているベッドまで壁をすり抜けて駆け抜けてみたりと楽しんでいると、いつものアラームの音が聞こえてくる。


 もったいないけども、起きる時間だ。さあ今日も1日が始まるぞと意気込んでみても、目が覚める気配がない。


 何でだろうと考え込んでいると、同居人が目覚める音が聞こえる。きっと彼女が起こしてくれるだろうと待っても、なかなかその様子は感じられない。


 そうこうしていると、リビングに美沙がやってきた。寝ている時はよくわからなかったが、まるで一晩中泣いたかのように腫れた目元と、赤い目。一体なにがあったのかと近寄ると、まるで僕が見えていないかのように洗面所の方に向かっていった。



「ちょっと美沙、なにがあったんだよ!」



 そう声をかけてみても、一切反応せずに歩いている。


 洗面所につき、顔を洗って彼女はリビングの一角に向かった。そこにはこれまでこの家になかった小さな木のタンスのようなものがあった。



「こんなのいつの間に買ったの?昨日はなかった気がするんだけど?」



 僕の問いかけには一切反応せず、美沙はその扉を開いた。そこにあったのは、僕の写真と、彼女にあげるはずだったダイヤの指輪。


 その景色を見て、起きる前に見た夢を思い出した。いやな予感がする。こっちに突っ込んでくるトラック、回る世界、地面に落ちているダイヤの指輪。壁や美沙をすけることができる現状。なぜ美沙がまるで僕を見えていないかのように行動するのか。


 全ての点が線となってつながっていく感覚。たどり着いてしまったのは絶対に認めたくなくて、それでも1番今の状況にかなったもので。


 そして我が家に新たに置かれたその仏壇が何よりの証拠で⋯⋯。


 やっと気づいたか、お前はもう死んでいるのだと、頭の中で誰かが呟いたような気がした。

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