彼女の時計が動くまで
りんごす
第1話
朝6時、1日の始まりを告げるアラームすぐ近くでガンガンと鳴り響いている。その音に反応するように悩ましげな女性の声がすると、代わりにアラームが止まった様子。ようやく彼女も起きたみたいだ。
「ふあー!よく寝たー!!」
「おはよう、今日も一日頑張って」
「おはよー!今日もいい天気だねー!」
そう言いながら彼女は出かける準備を始めた。カリッと焼いたトーストを食べながら朝のニュースを見ていると、もう出かける時間も近づいてきたみたいだ。
「優雅な朝を送ってるけど、時間の方は大丈夫?」
そんなことを口にすると、彼女も気づいたようで、慌ただしく身なりを整えて準備も完璧。後は靴を履いて玄関を潜るだけというところでくるっと回ると、
「危ない危ない、忘れるところだった!いってきます、今日も1日見守っててね!」
そう言って部屋の隅にある仏壇に手を合わせると玄関を出て行った。
「やっぱりそう簡単にはいかないよな。早く次の出会いに向かって欲しいんだけど。」
そう言いながら僕は自分の写真が飾ってある仏壇を眺めるのだった。
彼女もとい美沙と付き合い始めたのは就職してすぐの6月だった。比較的世間では有名な企業にお互い新卒で入社し、新人研修や飲み会などで交流していくうちに旅行という趣味が合い、そこから付き合うのまではすぐだった。
僕も美沙も都内で一人暮らしをしており、仕事終わりに2人で終電まで飲んでは近い方の家に泊まっていくということをしているうちに、いっそのこと同棲してしまおうということになり、付き合って1年の頃に2人で生活をし始めた。
そんな生活をしていればどうしても話に出てくるのが結婚という2文字で、僕らの中にもいつ結婚しようかという気持ちが日毎に強くなっていくのを感じながら、幸せな生活をおくれていたと思う。
付き合って3年目の9月、彼女の誕生日を迎えるこの月に僕はこれまでの人生で並ぶものがないほどの決意を胸にして最寄駅から家までの道を歩いていた。鞄の中を見れば、つい先日都内の有名なジュエリーショップで受け取った決意の証が入っている。そう、ついに僕は彼女に結婚を申し込むのだ。
「あー、やばい。ついにこの日が来ちゃった。受け取ってくれるかな。もしも断られたら⋯⋯」
そんなことを呟きながら歩いていれば、あっという間に家の近くまで来てしまった。
「ここまで来たらやるしかないよな!当たって砕けろだ!!」
信号を渡って右に曲がればもう目の前に家がある。もういくしかない。そんな覚悟を決め、信号を一歩踏み出した所で僕の時計の針は動くことをやめてしまった。
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