第5話

 もう何十年も昔のことです。僕の家には、おおきな馬のおもちゃがあったのです。ただの木馬とはちがって、ちゃんとあたたかい手ざわりをした本物そっくりの馬でした。本当に、僕は長いこと、家に本物の馬がいたんだと思いこんでいたくらいです。僕はその馬がものすごくきにいっていて、よくお父さんにおねだりして、馬の背中に乗せてもらったものでした。そして1日中その馬に乗って、緑の野原を走ったものでした。

「思いだしてくれたかい。」

「思いだしたよ、思いだしたとも。ずいぶんひさしぶりだね。今はどうしているの。今もあの頃のように、緑の野原を走っているのかい。」

そう聞くと、馬君はちょっとさびしそうに、

「いや、もうそんなことはしていないんだよ。」

と言いましたが、すぐに、

「でも、せっかく君が来てくれたんだから、あの頃のように、野原を走ってあげようか。」

と言ってくれました。僕はすっかりうれしくなって、

「うん。」

と大きな声で言いました

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