少女の居場所 前編

「何かおかしいと思わないか?」




「え?」




 ケンが私にそう訊いてきた。私は少し戸惑ってしまう。




 私たちは今、エイミーちゃんを探しに草原。


 おかしいと言えば……。




「なんでエイミーちゃんの特徴なんか聞いてなかったの?」




 うん。これはおかしい。


 だって特徴がわからないのにどうやって探すの?




 すると、ケンはこう答えた。




「それは聞く必要が無いからだ。しかもあの場で聞いていたらなことになるからな」




 余計意味がわからない。




「え、でもそんなんで大丈夫なの?」




「ああ、きっと見つかるさ。ここを歩いていたら」




 うーん。本当に大丈夫なの?




 質問する度に疑問が増えていく。




「まあとにかく、見つかるってことね?」




 私たちの前から三人の冒険者たちがテルイズに帰っていく。




「ああ、そういうことだ。ところでーー」




 ケンが立ち止まった。そして、盗賊の格好をした三人の冒険者が通りすぎていった。




「そこの三人、止まれ。何平然と通りすぎている?」




 ケンはそう彼らに命令した。そう言われた彼らはケンを振り向く。私も彼らと同じように振り向いた。




「なんだ? 俺らに用があるのか?」




 一人の冒険者が苛立ちながらそう言った。




「ああ、用がある。貴様ら最近、魔族を殺したか?」




 ケンがそう訊いた。




 え? 何訊いてるの? エイミーちゃんを見つけるんじゃなかったの?




 すると、リーダーらしき筋肉質溢れる冒険者は




「ああ、殺したさ」




 と自慢気に答える。




「それでその魔族はどんなやつだった?」




 立て続けにケンは冒険者たちに聞く。




「そうだな。確か女だったか? 少し小さかったがすばしっこく逃げるからある意味殺やりがいがあったぜ!!」




「そうか。ならその遺体はどこに埋めた?」




「何故お前がそんなことを聞くんだ!!」




 もう一人、二本の剣を背中に構えている冒険者がそうキレながら口を出した。




「すまねえが、それは言ったらダメなんだ。許してくれ」




「ダメだ。言え」




 一人の冒険者がそう言ったのにも関わらずケンはそれを拒否した。




「どうしてそこまで言う?」




「人を探している」




「そうか。ならお前の思っている奴とは絶対に違うと思うぜ」




「いや、間違いなくそいつだ。だから話せ」




「だから、無理なもんは無理なんだ」




「話せ」




 ケンは彼らを睨みつける。ケンの目は明らかに殺意があった。




「あぁあ。めんどくさいな、お前。だからーー」




「じゃあ、魔族を殺すよう依頼クエストした奴は誰だ?」




 ケンは唐突に質問を変えた。しかし、




「すまねえが、それも言えねえんだ。悪いな」




 と言ってまたもや拒否した。




「何故だ? これは別に言ってもいいはずだが」




「そういう依頼なんだよ。もし言ったら賞金がパーになる」




「なるほど、ならーー」




「もういいな、じゃあ」




「貴様らを倒し、力ずくで在処を見つけるとしよう」




 ケンはそう言ってリーダーらしき冒険者の目の前に立っていた。




「おい、いいのか? 俺たち仮にもA級冒険者だぜ? それも三人。お前、見たところS級なんだろうけど俺たち三人相手じゃ結構きついだろ?」




「いや、貴様らが三人いようと大した差にはならない」




「ちっ!! 舐めやがって!!」




 筋肉質溢れる冒険者が舌打ちを鳴らして一発、ケンの腹部を殴った。衝撃で作られた風がケンを過る。しかし……




「おい、お前。これはどういうことだ? 俺の全力が何故聞かねえんだ?」




「そうか、貴様の全力はこの程度か。なら俺も全力で殴るとするか!!」




 ケンも冒険者を一発殴ろうとした。その時、山ひとつ吹っ飛ぶような風圧が彼らに襲った。だが、冒険者は本能的に避けていた。




「何故避ける?」




「あんなの避けなきゃ死ぬだろ?」




「ああ、そうだな!!」




 ケンがまた一発殴りかかった。だが、今度は二本の剣を持つ冒険者が双剣でケンの拳を食い止めた。




「ほう、やるな。貴様」




「ふんっ!! ほめてる場合か?」




 すると、ケンの体に異変が起こる。ケンは後ろに一回ステップを踏んだ。と同時にケンの膝が地面につく。




「くっ!! ぐはっ!!」




 ケンの口から大量の血が出る。




「ケン!!」




 私は咄嗟に声を出してしまう。この時、呼び捨てをしたのは初めてだ。


 すると、双剣の冒険者がこう話す。




「苦しいだろ? この剣、魔剣ポイズンレイは毒魔法<神による致死毒ブラック・サリン>が付与されているんだぜ!!」




 私はケンのもとに走り、「大丈夫なの?」 と言って背中を触ろうとした。




「おい、嬢ちゃん? 今こいつに触れたらいけないぜ? なんだって嬢ちゃんにも毒が移ってしまうからな!!」




 そう双剣の冒険者は上から目線に言った。


 私は手を止め、彼を睨んだ。睨むことしかできなかった。




「……ああ。……奴の……言う……通りだ……」




 ケンが苦しそうにそう言った。




「ねえ、じゃあ私どうすればいいの?」




「お前はそこにいろ、そうしな――」




 ドガーン!!




 ケンが話している途中に上空から彼を覆うように雷が落ちた。私の目の前で落ちたのだ。




「ケ……ン……?」




 落雷が収まったとき彼の姿は黒く焦げていた。顔の認識できないほどに。そして彼は倒れた。




「ひゃああっはっは!! これで魔王が死んだぞ!! これで俺たちは英雄だ!!」




 そう言って冒険者のリーダーはあざとく笑っていた。




 私はケンの悲惨な姿があまりにもショックで体が硬直していた……。

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