本当の依頼主

「ふん、ふふん、ふふうん!!」




 私は今、とても気分がいい。それは単にこの髪飾りが綺麗だというわけではない。


 ケンが似合うって言ってくれたからだ。




「おい、何顔をニヤつかせている? もう着くぞ」




「そんなこと言われたって……エヘッ」




 顔が緩んでしまう。いつもこんな見るからに堅そうな態度をとる彼がそう言ってくれたから仕方ない。




 それはさておき、私たちはこのテイルズという町で唯一のギルドに行っている。




「ほら、着いたぞ」




「おおおお!!」




 石灰という土から作られた白い建物だ。この町の風景に合致している。




 バンッ!!




「失礼するぞ!! ここの長はどこだ? ガリウルからやってきた魔王ケン・アルベルトだ!!」




 ケンが勢い良く扉を押して、少しギルドを歩く。


 私はまたもや「おおお!!」と言って感激する。




 そして少し時間が空くと、なにやら重い空気が周りを充満していく。すると、二階から一人の老人が出てきた。




何? この嫌な感じ?




どうやらこの老人が発生源のようだ。こんなにも体が細いのにどうしてこんな重圧がかかるのだろう。




そう思った瞬間、一気に重圧は無くなった。そして、老人は柔らかくこう言った。




「おやおや、これはこれは。ケン・アルベルト様。よくぞ、遥々遠いところからお越しいただいて――」




「そんなことはいい。早く話をしよう」




 ケンは睨みながら口を挟む。




「いえいえ、そんな焦らず。ささ!! まずは私の部屋でゆっくりしてください」




「……わかった」




 私たちは老人に連れられて部屋に行った。








「さあさあ、遠慮せず座って下さい」




 部屋に着くと老人が扉を開けて、そう言ってくれた。


 ケンは無断で椅子に座り、私は礼儀正しく「失礼します」と言って座った。




「それでお前の名は?」




 ケンが老人に訊く。




「あれ、儂の名前を言ってなかったかのう? 私はこの町長兼ギルド長を務めておる、ハリー・テルイズじゃ。それで、そこにいる嬢ちゃんはどなたかな?」




 私はハリーさんに言われてすぐに名乗る。




「初めまして。私は彼のパーティーメンバーのミカです。どうぞよろしくお願いします」




「そうか……」




 私が名乗った後、ハリーさんは何か気づいたかのように私を見てきた。




「それで、依頼とはどんなものだ?」




 ケンが直球に訊いてくる。すると、ハリーさんはこう言った。




「ああ、儂が依頼したのではないんじゃよ。少し待ってくれんか? もうすぐ本当の依頼主が来ると思うのじゃ」




「……わかった」




 ケンは睨みながら答えた。私は彼からにじみ出る嫌なオーラが気になって仕方なかった。




 しばらくすると、ハリーさんの部屋の扉が開いた。秘書の人が開けたようだ。




「では、こちらへ」




「はい、ありがとうございます」




 扉に現れたのは一人の若い女性。耳が長く、容姿端麗。この人はもしかして……。




「初めまして。ケン・アルベルト様、それにケン・アルベルト様の直属の冒険者様。私はレミー。見た通りれっきとしたエルフです」




 彼女はそう言って深くお辞儀をした。私もつられて座りながらお辞儀をする。




 それにしてもエルフ、それもハイエルフを見るのは初めてだ。


 エルフは森の妖精。普段は世界樹ユクドラシルに住んでいることは知っているけど、まさかこんな所で会えるとは思わなかった。




「それで俺に何の用だ?」




 ケンがレミーさんに訊く。すると、レミーさんはこう答えた。




「お願いです!! どうか娘を探してください!!」




 え!! 子供いたの?




 と私はふと思った。そういえば妖精は五千年生きると言われていたことを思い出す。この時私は、この人本当は




 私よりも年取ってる?




 と疑問に思った。




 まあ、そんなことは置いといて私はこう訊いてみた。




「なんで娘さんはいなくなったんですか?」




「それがわからないの……」




「わからない? それはどういうことですか?」




 わからない? すこし怪しく思えてきた。レミーさんはこう答えてくれた。




「はい。確か四日前――」








――四日前






「おーい、エイミー!! 朝だよ!! 早く起きなさい!!」




 私は朝、娘であるエイミーを起こすために声をかけた。




 エイミーは元気で誰にでも優しい自慢の娘だ。


 そして、今日は友達の家に遊びに行くと言っていたため、私は彼女を起こそうとした。




 でも、エイミーの返事はなかった。いつもは返事をしてくれるいい子なのに……。


 私は少し違和感を覚えて彼女の部屋に向かう。




 部屋を開けると、ベッドにエイミーの姿はなく、空き巣が入ったようなぐらいにもぬけの殻だった。


 でも、私はそのとき少し安心した。もう友達の家に行ったのだと違和感を残してそう思った。




 違和感は見事に的中していた。


 夜、エイミーは帰ってこない。いつもなら帰ってくるはずの時間に帰ってこないのだ。




 私に少しずつ不安が募る。


 そして不安が最高点に達したとき、私は気づかないうちに家を飛び出していた。




 私が最初に向かったのはエイミーの友達の家。




 コンッコンッ!!




 私は慌てて扉をノックする。すると、現れたのはエイミーの友達の父親であるビルさんだった。




「おやおや、これはこれはエイミーちゃんのお母さん。こんな夜遅くにどう――」




「娘は今、そこにいますか!?」




 私は唐突に訊いた。




「いえ、今日、エイミーちゃんは来ていません」




「そ、そんなぁ……」




 私は腑抜けた声で足が崩れてしまう。




「エイミーちゃんに何があったんですか!」




「エイミーが帰ってこないんです。いつもは夕方ぐらいに帰ってくれるはずなのに……」




 私はそう言いながら、一粒涙が流れた。するとビルさんはこう言ってくれた。




「わかりました。探してみます!! ですからあなたはまず家で待機してください」




 こうしてエイミーのために夜遅く、ビルさんが多くの冒険者を集めてくれた。魔獣が活発化する夜に危険な森まで探しに行ってくれた。




 でも、エイミーはいくら探しても見当たらず、朝を迎えてしまった。








「あれから私は冒険者さんと一緒にエイミーを探しています。でも、まだ見つけられていないんです。だから、私は心配で心配で……」




「それで何故俺たちなんだ?」




 ケンはレミーさんに問う。レミーさんは一粒の涙を溢した。




「こんな芸当でできるのはS級魔獣だとハリーさんは言いました!! しかし、この町ではS級冒険者は誰もいません!! だから、ケン・アルベルトさん!! あなたに依頼クエストを頼んだんです!!」




 そう言ってレミーさんは我慢していた涙が一気にこぼれ落ち、足が崩れてしまう。


 泣き崩れるレミーさん。私はなにもすることはできなかった。


 そんなとき、ケンはレミーさんのところへ行き、レミーさんの背中を優しく叩いた。


 そして、ケンはハリーさんを睨・み・ながらこう豪語した。




「わかった。その依頼を必ず達成しよう。たとえどんなことがあろうと!!」




 このとき、私は甘かったと思う。まさか、あんなことになるとは……。

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