妙な依頼
コンッコンッ!!
私の部屋の扉にノックされた。私はその音で目が覚める。
目が完全に冷めないまま私は扉に向かい、扉をゆっくりと開けた。
「よう、こんなところにいたか」
扉を開けた先には眉間にしわよせているケンがいた。私は彼のその苛立ちに満ちた笑顔に目がはっきりと覚めた。
「それで魔王様、今日も掃除ですか?」
私は恐る恐るケンに聞いた。すると、ケンはこう答える。
「いや、今日は久しぶりに冒険をしようと思ってな。でなければお前を寝かせている。お前昨日、夜更かししていただろ? テーブルに本が散らばっていたぞ。そのせいで俺と受付で一つ一つ片づけることになった」
「すいません。次から気を付けます」
え? そっち?
私は彼の言葉で少し安心した。それと同時に嬉しかった。
私の頑張りを認めてくれたからだ。
私は無意識に顔が緩んでいた。
「何、緩んでいる? 今から遠出するんだぞ。さっさと支度しろ」
私は少し疑問に思う。
「え? 遠出? 今からどこ行くの?」
「テルイズだ」
ガリウルから南東へまっすぐ進むと、そこには広大な海と海岸沿いに伝統的な家が建て並ぶ町がある。
その町こそテルイズだ。
でも私はそこでまた疑問に思う。
「でも、わざわざしなくていいでしょ?」
そう、テルイズはセルビアとガリウルとの距離と比べればそう遠くない。精々馬車でも二日程度だ。
これでもかなりの距離なんだけど……。私はケンのせいで頭がおかしくなっていると思う。
「ああ、その事ならこれを見てみろ」
私はケンに言われて依頼書をみる。
依頼書の内容はこうだ。
S級クエスト 魔王城ケン・アルベルトからギルド長ケン・アルベルト様へ
あなたにある依頼クエストをお願いします。
至急、テルイズに来てください。
この依頼は魔王を名乗っているあなたにしかできません。
どうかよろしくお願いします。
テルイズの町長兼ギルド長 ハリー・テルイズより
何これ?
如何にも怪しい依頼書だった。
「こんなところの依頼を受けるの?」
「ああ、受けるさ」
「やめて!! 絶対何か裏があるって?」
私は心の底からそう言った。だが、ケンはこう返答した。
「だ・か・ら・だ。俺は必ず行く。では、お前はどうする? 行くのか? 行かないのか?」
逆にケンが私に訊いてきた。
どうしよう?
と一瞬思ったけれど私の答えは決まっていた。
「行く!! せっかくあなたと冒険できるのに、どうしてここで留守番しなきゃいけないのよ!!」
「決まりだな」
こうして私とケンは二日掛けてテルイズへと向かった。
※※※※
「うわあぁぁぁぁぁぁ……。海、綺麗……」
尽きることのない青と匂わせる初めての香り。私はケンに無理を言って海岸に行き、そして興奮した。だって、海を見るのは初めてだから。
「おい、何をしている? 早く来い。まず宿を確保するぞ」
ケンが無理に宿を探そうとする。私はもう少しここにいたかったけどさすがに彼の顔が苛立ちに満ちていたので仕方なくついて行った。
宿を確保した後、ケンと二人でいろんなところを観光した。
新鮮な魚の刺身を食べたり、貝殻のアクセサリーを買ったり、アロハシャツを着てみたりした。
はたから見たらカップルかも……!!
という冗談はさておき、私は市場を散策しているとある店で一つの花のヘアピンを見つけた。
黄色い花だ。無数の花びらが中心に開いている。
「これは何?」
私はケンに訊いてみた。
「それはタンポポだな」
彼は素直に答えてくれた。
へえ、タンポポか……。
私は何・故・か・この花に夢中になる。こんな花ここでしか咲いて――
「おい、それはどこにても咲いてるぞ」
「え!! そうなの!!」
なんだ、そうなのか……。
少し落ち込んだ。
でも、なんかこの花……「花びら……綺麗……」
思わず声が出てしまった。ケンはこの声に反応してこう答える。
「何を言っている? それは花びらではないぞ」
「え?」
「正確に言えば花だ。よく見てみろ、ここに黄色い一本の――」
ケンが急に語りだした。私は彼の言っていることを理解できなかった。
彼の顔を見てみる。彼はそれはもう嬉しそうな顔をしていた。
私もニコりと笑ってしまう。こんな彼もいいな……。
「じゃあ、このヘアピンを買うよ! おばさん、このヘアピン下さい!!」
「はあい」
私がそう言うとケンは少し驚き、ケンが慌ててお金を出す。
「それでいいのか? この花はどこにでも咲いているぞ」
「いいの、いいの!! それよりこれ、似合う?」
私は買った後すぐヘアピンを身につけて彼に見せる。
彼は少し笑顔になって
「いいぞ!! よく似合ってる!!」
と言ってくれた。だから私はお返しに
「ならこれ、大切にするね!!」
と言って髪をかき揚げながら彼に満面な笑顔を見せた。
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