「私」の名前
「すうぅぅぅぅぅぅ、はあぁぁぁぁぁぁぁ」
S級クエスト?の帰り、私は深呼吸をした。
またケンにおんぶされてガリウルに戻ってきた。
門で通行手形を見せる。門番は誰でもわかるような作り笑いで出迎えてくれた。
それはケンも気づいていたようで少し首をかしげる。
私は彼の後ろについていく。ここに来てまだ二日だからあまり土地勘が無い。
彼について行って少しすると、何やら人が集まって、騒ぎ立てていた。
そして、その集まりの外にいた住民の一人がケンに声を掛ける。
「あの……。魔王さん、あなたのギルドの前で、ええとすごい有名な人がいるのよ!!」
「有名な人と言うのは?」
「あの冷酷な魔王を倒した英雄よ!!」
「そうか、わかった。なら通してくれ」
ケンがそう言うと、その住民は「魔王さんが来たわよ!! ここを通してあげて!!」と集まっている人たちに声をかけてくれた。そのおかげで魔王の前に一本の道ができ、ちょうど真ん中に『魔王城 ケン・アルベルト』と書かれた看板を見ているケヴィン様がいた。
「ありがとう、皆」
ケンは彼らにお礼を言い、できた道を歩く。私も彼の後ろでケヴィン様に見つからないように彼に隠れながらついていく。
「よう、ケヴィンここで何をしている??」
ケンが先に声を掛けた。ケヴィン様は彼の言葉に気づき、睨んで強くこう言った。
「ここに隠れていたか!! 不滅の魔王!! それと魔王と共にいる裏切り者!!」
やっぱりバレてた!!
私は恐る恐る彼に姿を見せる。
周りが騒ぎになる。それもそうだ。今ここで英雄と自称魔王が対立しているのだから。
そんな中私はケヴィン様の『裏切り者』という言葉に心を痛める。
すると、ケンは彼の言葉にこう返した。
「おいおい、この娘が『裏切り者』だと? それは違うな。この娘とは一つも手など汲んでいない。それより貴様こそどうした? どうやら貴様は一人のようだが……」
「今日は僕一人だ」
ケンは次々にケヴィンに問いかける。
「なぜだ? 貴様は確か、仲間を増やして俺に立ち向かうのではなかったのか?」
「ここに一日で来れるのは僕だけだ」
「では、なぜ俺の居場所がわかった?」
「君の噂を聞いたからだよ。だから、僕はいち早くこのガリウルに来た。そして、見つけた。だからここに住んでいる人たちを助けるために君を倒す!!」
そう言ってケヴィン様は二大聖剣アルファメイデンを突き出す。ケンは微動だにしない。
それどころかケンは足を前に踏み入れて突き出した聖剣の刃に自分の首を当てた。
「ちょっ、何してるの!!」
私は思わず言葉に出る。だが、ケンは私のことをお構いなしにして、立て続けにこう言った。
「お前、ここで争うのか。やめておけ。ここにいる人間全員死ぬぞ」
「……今、君の首を斬ったら被害は出ない」
「安心しろ。そのぐらいで俺は死なない」
「なら!!」
ケヴィン様はケンの首を斬ろうとした。私は目を閉じる。
すると、私と周りにいた住民たちに強烈な風圧が襲った。
「なんて、パワーだ!!」
「これが魔王を倒した英雄の力か!!」
「うわあああああ!!!」
「サリー!!! うっ!! きゃあああ!!」
騒ぎ立て、必死にこらえている住民たち。この風圧で飛ばされてしまう女と子供。
そんな中私はただただこの風圧に耐えることしかできなかった。
風圧が収まった。私は目を開ける。そこには信じられない光景があった。
「お兄ちゃん!! ありがとう!!」
「本当にありがとうございます!! 魔王様!!」
「いいや、俺はただお前たちが飛ばされていただけだから助けただけだ」
ケンの首は一ミリたりともケヴィン様の聖剣が食い込まれておらず、さらに言うなら、ケンのそばには子供とその母親がいた。
何が起こっているのかわからなかった。ケヴィン様は少し苛立ちの顔になっている。
「それでお前はどうする??」
ケンが立て続けに訊いてくる。すると、ケヴィン様は周りを囲んでいた住民たちにこう叫んだ。
「皆さん!! 彼は今、僕にこう聖剣を振るよう誘導し君たちを危険に晒しました!! そして、こうやって君たちに安心させるように仕向け、いずれ君たちを殺すでしょう!! よって、僕は今日からここの保護下に置きます!!」
ケヴィン様の声はそれはもう力強いものだった。
だが、
「帰れよ……」
「はい?」
「帰れつってんだよ!!」
「何、お前がそんな口をたたけるんだ!!」
「そうよ!! あなたのせいでこの町が被害を受けたんじゃない!!」
「それにここにいる自称魔王はいいやつなんだよ!! あいつのおかげで近くにいるA級クラスの魔獣が襲い掛からなったんだよ!!!」
ケヴィン様の受けた声は非常に悪いものになった。
「「「帰れ!!」」」
パチンッ!!
「「「帰れ!!!」」」
パチンッ!!
彼にかなりの罵声が来る。そして、
「どうする、ケヴィン?? お前が何と言おうとここにいるみんなは何も変わらないぞ」
ケンがケヴィン様にそう忠告する。
ケヴィン様はあまりにも罵声に歯ぎしりを立てる。そして、ケヴィン様は
「<
と詠唱し、この場を去った。
やがて住民たちはギルド:魔王城 ケン・アルベルトから次々と去っていき、私とケンの二人だけになった。
「お前はどうする?」
「え?」
「お前にはどこの行く当てもないのだろ?」
「そうだけど……」
「もし迷っているのなら、俺のギルドでクエストをするのはどうだ?」
「!!!」
ケンは少し照れながらそう言った。私は少し驚いた。
誘ってきてくれたのもそうなんだけれど、それよりも彼もこんな顔ができるんだなってところが特に私にとって物凄い発見だった。
そして私は彼の誘いにこう答えた。
「わかった。ここに入らせて」
「!!!」
ケンは私の答えに驚いていた。
「それは何故だ?」
ケンが何か落ち着かない様子で訊いてくる。私はすぐにこう答える。
「だってあなた、魔王って言うからすこし怖かったけど、ここ数日、ずっとあなたを観察していたら案外いい人? いい魔族だから」
私がそう言ったあと、ケンは自分の顎を触った。そして、彼はこう言った。
「なら、歓迎しよう!! 私は不滅の魔王 ケン・アルベルト。お前の名は?」
彼は改めて自己紹介をし、私の名前を訊いてくる。
そういえば私、自分の名前を彼に言ってなかったな……。
私はふとそう思った。そしてすこし間が空いて自分の名前を笑顔でこう言った。
「……ミカ。私の名前はミカって言うの!! よろしくね!!」
こうして私は魔王に拾われたのであった。
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