魔王と最初のクエスト?
ガリウルより西の果て、国境を聳え立つ標高約四千メートルの山脈、ネウロラピタ。
この山脈は英雄を含むS級パーティーしか入ることが許されない、いわば超危険区域。
そして、私とケンはここで人食い鬼オーガと遭遇した。
「な、何!! この化け物!!」
私は思わず叫んだ。
「どうした? 見るのは初めてか?」
「そんなの初めてに決まってるでしょ!! 人食い鬼ってそんな……山を降りたら一体だけで村が滅ぶって言われてる魔族に会う方がおかしいでしょ!! もし会っていてもすぐに食べられてるわよ!!」
「そうか? なあ、そんなものなのか?」
ケンは人食い鬼にそう訊いた。
「そうだな……。まあ、確かに会った人間はそこら辺の草を食っている鹿よりも旨いからなあ……」
そう人食い鬼は私を見てよだれを垂らしながら冷静に答えた。私は鳥肌が立つ。
「特に女が好きなんだよ!! 甘い匂いがしてさらに食欲が注ぐからすぐ食い終わっちまう」
止めてえええ!! そんな話しないでえ!! そんな話聞きたくなかった!!!!
私は人食い鬼の話を聞いて余計顔が青ざめる。
「それで、お前に一つ頼みがある」
「話とはなんだ?」
「簡単な話だ。お前の角をくれ。お前も俺の眷属なんだ、出来るだけ殺したくない」
ケンは人食い鬼にこう言った。
何を言っているの? 討伐じゃなかったけ?
と思いつつも私はケンの後ろに隠れていた。
「いいだろう……。ただし条件がある」
人食い鬼はこう条件を出した。
「その女を食わせろ。それならその頼みを聞いてやる」
人食い鬼は私を見てよだれを雪崩のようにこぼしながら言った。
私は余計に恐怖を感じ、ケンの服を引っ張る。
ケンはどう反応するのか、やはり魔王だから私みたいなちっぽけな人間を差し出して角を手に入れるような行動をとるのか気になった。
そして、ケンはこう言った。
「それは聞き入れない条件だな。もし、条件を聞き入れなかったらどうなる?」
「そんなもの、決まっているだろう。お前ごとその女を食ってやる!!!」
人食い鬼はそう言うと私たちのもとにまっすぐ襲い掛かってきた。
地面から響き渡る凶悪な足音、目では負えないその驚異的なスピード。
このままだと、ヤバい!!
「はああ、お前は俺が何者なのか気づいていないのか……。ならばその身に叩きつけてやろう」
ケンはそう言った。と同時に私の背後に人食い鬼が現れる。
そして、ケンは立て続けにこう叫んだ。
「膝をつけ!! さもなくば、殺すぞ!!」
すると、人食い鬼は一瞬で膝をついた。
私には何が起こったのかわからなかった。でも、微か何かを感じた。
その後、人食い鬼はこう言った。
「申し訳ございません、不滅の魔王 ケン・アルベルト様。この度私の不注意で御身に怪我させてしまうところでした。なので、私の身で償わさせていただきます」
「よい、別にお前の攻撃では俺に傷などつけられるわけもない。だが、この娘に傷をつけてしまうかもしれないからな」
「は。私の愚かな行為を許していただき誠にありがとうございます」
ん? 何が起こっているの?
私はこの状況に一つもついていけてない。
確かに魔王は魔族と魔獣を従えているのはわかるけど。
私が困惑していたところ、さらにケンがおかしなことを言った。
「そうそう、ここに竜を呼んだ。もうじきここに来るだろう?」
「何言ってるの? そんなの来るわけないじゃ……ってええええええええええ!!」
本当に来た。空からゆっくりと降りてきた。
うろこに覆われ、大きな翼を持つトカゲに似た魔獣。前に見た魔竜とそっくりだ。
「よう、お前にも相談があるのだ――」
『グルララララララ!!!!』
魔竜は森に響かせるぐらいに大きく叫ぶ。
「何があったのか?」
ケンが魔竜にそう言った。すると、魔竜は私の方に向く。
え!! また私を食べようとするの!!
魔竜は言葉を話せない。だから、ケンにジェスチャーをした。
ジェスチャーの内容はこうだ。
その娘、英雄と呼ばれている男と一緒にいた奴
私の弟が殺された
その娘を殺したい
私はこのジェスチャーで再び恐怖を感じた。
すると、ケンは呆れたようにこう口に出す。
「そんなことなら、お前は弟を生き返れば許すのだろう?」
魔竜はケンの言葉にうなずく。
「ふむ。ならば生き返すとしよう。そして、生き返させたのならお前と弟の爪をくれ」
ケンはそのような言葉を言って目を閉じる。そして、彼はこう唱えた。
「器を失った魂よ。今ここで新たな器を生成し、新たにこの世界へと転生せよ、<
すると地面に大きな魔法陣が描かれ、そこからケヴィン様が倒した魔竜がみるみると蘇る。
<
私は数々の魔法書を読み漁って転生の魔法<
一体どういうことなの?
魔竜が目を覚ます。すんなりと成功したようだ。
『グルルルルララララララ!!!!!!』
魔竜は産声かの如く吠えた。
魔竜の姉は彼が生き返ったことに喜び、自分の頭を彼の頭に当てた。
そして魔竜の弟はケンに一礼、すぐに体の一部の爪を渡した。
「ふむ。確かに爪はもらった。では、お前らにはもう用が無い。立ち去るがいい」
ケンはこう魔竜たちにそう命じる。
魔竜の姉弟はその言葉を聞き、大きな翼を広げた。
でも、私はどこか罪悪感があった。
「ちょっと待って!!」
私は魔竜たちに叫ぶ。そしてこう訊いた。
「あなたたちは私に恨みはないの?」
私は勇気を振り絞って言った。この言葉で殺されるかもしれないからだ。
でも、魔竜たちは私の叫びに一瞬止まったが私の言葉を無視して飛び立った。
私はまだ罪悪感が残る。しかし、その後テレパシーが聞こえた。多分魔竜の弟だ。
『あなたに恨みはない。僕が単純に弱かったから倒されただけだ。もちろん、英雄ケヴィンにも恨みはないよ。彼は洗・脳・されているから。まあ、またあなたとはまた会いそうだから、その時はよろしく』
洗脳?
私はそのことに疑問に思ったけど、それよりも彼に恨みが無くて良かった。安心した。
そのおかげで私の肩の荷が下りた。
「さて、人食い鬼よ。わかってるな?」
「は。もちろんです」
そう人食い鬼は言ってケンに自分の角を渡した。
「よし、ならばお前も立ち去るがいい」
「は!!」
人食い鬼はそう返事したあと、すぐそう森に帰った。
「さてと、帰るとするか……ってなんだ? その顔は?」
ケンは私に言った。でも私は彼のその適当な依頼クエストを見て少し腹が立っていた。
「なんで!! 依頼を完璧にクリアしないの!!」
「簡単だ。その必要が無いからだ」
「どういうこと?」
ケンの言葉に私は疑問になる。
「彼らは人は襲うことはもう無い」
「どうして?」
「俺がそう魔力で命令した。俺は魔王だ。そのことぐらい出来る」
「ふーん」
私は彼を疑った。その言葉に信用が無かった。
でも、私が彼らに勝てるわけもないからケンの言葉を信じた。
「おい、帰るぞ。俺の背中に乗れ」
ああ、そうか……。ここは西の果てだったわね……。
私は仕方なくおんぶされる。そして彼は勢いよくガリウルへと走った。
ガリウルに着き、魔王城に戻った。と同時にケンはギルドの前である冒険者とにらみ合っていた。
「よう、ケヴィンここで何をしている??」
「ここに隠れていたか!! 不滅の魔王!!」
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