あの日の記憶

 「おい、まだかよ!!」




 知らない男の子は私を呼んだ。




 ここはどこ?




 私は周りを見渡す。


 ずらりと並び、巨人族の家よりも高い建物。王都よりも明らかに人が多い大通り。


 私の横で止まったり動いたりする馬を曳いていない車。




「あなた、だれ?」




 私は彼に問いかける。




「誰って? 俺だよ、……!!!」




『……ろ!! 起きろと言っているだろ!!』




 はっ!!




 私は目が覚める。




「よう、目が覚めたか。お前、抵抗してた割にはぐっすり眠っていたな」




 目の前にケンがいた。すごく近かった。




「ひっ!!」




 私はすぐベットの端に避難した。




「な、なに?」




 私は布団で声を曇らして言った。あえて顔が近くだったことは聞かないことにした。




「貴様は今日からどうするつもりだ?」




「どうするって。もうギルドには帰れないから……」




「ならば、俺のギルドの仕事を手伝え。今、かなりの仕事が溜まっている」




「なんであなたの仕事を手伝わなくちゃならないのよ!!」




「いいだろ? 俺のギルドで寝泊まりしたのだからそのぐらいの見返りがあってもいいはずだ」




 ギクッ!!




 私は何も言い返せなかった。だから、私は彼のギルドを手伝う羽目になった。






 ※※※※






「それにしても、ずいぶん多いわね……」




 私は呆然とした。壁に張り出された依頼書がこんなにあるとは思わなかった。


 この量は私が前にいたギルドよりかは少ないけど、それでも一流ギルドと思えるほどの量だ。




「これを今日中で片づける」




 ……は?




「じょ、冗談でしょ!!」




「冗談ではない。今日は魔獣しか相手しないのだからな」




 何言ってるの?




 私はそう思った。依頼書の中には魔竜討伐や、人食い鬼オーガ討伐などS級クエストが含まれていた。




「それで、何か策があるの?」




「ああ、だからまずは一度ギルドから出てくれ」




「……わかった。でも、その前に」




 ケンは首をかしげる。




「着替えさせて。あと、ここから出て行って!!」




 私は大きな声で叫んだ。




「ふむ。わかった。なら外で待つとしよう」




 そう言ってケンは静かに扉に向かい、扉を閉めた。








「おい、遅いぞ」




「ごめん、少し出惑っちゃった」




 私はギルドの外に出た。そして、ギルド屋根の上にある看板を見てみる。




 ま、魔王城 ケン・アルベルト?




「って、バッカじゃないの!!!」




 私は周辺に響くような大きな声を出してしまった。そして、恥ずかしがるように口を覆う。




「何がバカなのだ?」




 ケンがまたもや首をかしげる。私はとにかく痰を切って言い直した。




「なんで、こんなわかりやすく自分のことをばらしてるの?」




 少し間が空く。




「……それは魔王が滅びたからだ」




 私は彼の言っていることがわからなかった。




「え、あなたは魔王じゃないの?」




「ああ、だが周りをよく見てみろ」




 私はここの道の人たちを見てみた。




 人々はその看板に見向きしない。それどころか一人の冒険者がここに駆け寄りケンに肩を絡まし話しかけた。




「よう!! 自称魔王様!! 今日も依頼クエストか?」




「ああ、今日は魔獣しか相手いないから楽だ」




「おいおい……さすがに俺の獲物まではとるなよ……。俺の収入が減るからな」




「……わかった」




 冒険者はケンに「よろしくな!!」と言って後を去った。


 私はこの雰囲気に違和感を持つ。




「どういうこと? ここってセルビアでしょ? なんであなたにそんなお願いするの?」




 私は疑問だった。普通、この会話は大手ギルドに他のギルドに頼むのに。


 ああ、あとセルビアって言うのは英雄パーティーがあるこの国の王都とはまた別の中心都市ね。




「何を言っている。ここはガリウルだ。覚えてないか?」




 え? 何言ってるの? ガリウルって国境を挟む辺境都市だよね?


 それよりもガリウルからセルビアまでって早くても一か月かかるんじゃ……。








「本当だ……」




 私とケンは都市から出て、外の門にある看板を呼んだ。すると、そこにはしっかりと『ガリウル』と書かれていた。そして、思い出す。確か……








 私がケンにお姫様抱っこされた時だ。




「少し跳ぶぞ、しっかり持っておけ」




「???」




 すると、ケンは膝を少しかがめる。そしてその勢いで勢い良く上空へ飛びあがった。




「ちょちょちょちょっ!!! 待って待って!! 何してるの!!!」




「何をって、俺は今自分のギルドに帰るところだが」




「それにしても……ひっ!!!」




 私は下に顔を向ける。




 なんて高さよ!!!  こんなの一つ間違えたら死ぬって!!


 しかも、上にいくほど息苦しいんですけど!!




「ここからが危ないぞ。しっかり捕まっとけ」




 一度上空で制止する。


 その後、体が地面に向かっていることがわかった。そして、私の体が宙に浮く。




「これってまずいんじ……ひ、きゃああああああ!!!!」




 私必死で彼の体にしがみついた。と言うよりしがみつくしかなかった。


 そうしないと、死ぬ!!




 それはケンもわかっていて私の体を強く抱きしめていることがわかった。




 やがて、私はこの後あまりにも強い力が私に襲うものだからいつの間にか意識を失っていた。








「おい、どうした?」




 ケンが話しかけている。私は思い出したことに少し吐き気が込みあがった。けど、彼を心配させないために「なんでもない」と答えた。




 彼は私に駆け寄る。




「ここに乗れ」




 彼はおんぶの姿勢になって言う。




 なに? 気を使っているの?




 私はそのことに嬉しくなり喜んで「仕方ないわね」と言っておんぶされた。




「少し飛ばすぞ」




 彼はこう言った。私は首をかしげる。


 気を使っているんじゃないの?




 すると、彼は地面を思いっきり蹴って猛スピードで駆け出す。




「ちょ、ちょっ!! ちょっと待っ、ふっ!!! アハハハハハハハハ!!!!!!」




 最初は驚いたけどなんか笑えてきた。なんとなく楽しくなってきた。




「そういえば、お前は俺が怖くないのか? 俺は仮にも魔王だぞ」




 彼がそう訊いてくる。私は笑うのを止めてふと考えてみる。




 なんでだろう?




 考えてみた結果、この答えにたどり着いた。




「うーん、あなたを見ても魔王って感じしないんだよね!! どこか懐かしい気がするから!!」




 私は彼に笑顔でそう答えた。


 すると、彼は「そうか」と言って真っ直ぐ目的地へと向かった。

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