第141話 陰口

 このゴタゴタが終わったら【ノードゥス村】まで来てくれないかと、土下座もせんばかりに頼み込んだスパーダたち4人の熱意に負けたララノアは、その頼みを了承する。


 聞けば、村の人々が原因不明の病に冒されていて、それを癒やす手段を探していたとのこと。


「うんうん、君たちも大変だったんだなぁ……。早く帰りたいだろうに、この村のために残ることを選んでくれたんだね」


 スパーダたちの思いやりに感動したララノアは、涙目になりながらも話を続ける。


「分かったよ。ボクを君たちの村に連れて行ってくれ。力になれるか分からないけど、ステラの力を使ってくれ」

「ララちゃん」

「ありがとうな」

「ララちゃん。どうもありがとう」

「ありがとうニャン。今まで何かとちょっかいかけてゴメンなニャン」

「…………何かとちょっかいかけてた自覚はあったんだ」


 そんなやり取りを終えた少年たちは、ララノア隊長の発案で村の探検を始めることにする。

 復旧の途中ではあるが、自分たちの村とは異なる雰囲気を見聞きするだけでも新鮮な驚きを得られるため、少年たちは喜んでララノアに続くのであった。


「そう言えば、今朝もみんな訓練してたけど、いつもあんなに厳しいメニューなのかい?」


 探検中、何気にララノアがそんな問いかけをする。

 すると、スパーダが訓練の過酷さを力説する。


「いや、今は兄貴が村のことで忙しいから、あれでもすごく楽なんだよ。冒険者の兄ちゃんたちなんて笑顔だっただろ?」

「うん」

「兄貴がいると、人の限界すれすれまで訓練するからヤバいんだ」

「そんなに?」

「訓練になると兄貴は人が変わるんだよ」

「うわぁ……」

「ホント、鬼だよ、鬼。鬼フォンスだよ」


 スパーダがそんな愚痴をこぼしていると、突然チェシャが声を上げる。


「あっ、アルニャ!」

「ヤベッ」


 その声に驚いて挙動不審になるスパーダ。

 目を見開いて周囲の様子を覗う。

 どうやら冷や汗もかいているようだ。


「ニャハハハ。嘘ニャ〜ン」

「ふざけんなよ、チェシャ姉!焦ったじゃねえか!」

「焦るくらいなら、最初から言うなニャン」

「チェシャ姉だって言ってるじゃねえかよ」

「アタシは本人の前で言ってるから、問題ないニャン」

「……陰口か悪口かの違い?」

 

 ふたりの会話を聞いていて、その超絶理論に頭が混乱してくるララノア。

 すると、そこにキャロルが割り込んでくる。


「でも、チェシャ姉の言ったこと、嘘ではないようですよ」


 そう言って、キャロルが指差した先には頭からフードをすっぽり被った小柄な人物が、キールの従魔であるトロルの【クロ助】に、太さが子供の胴回りほどもある【金棒】を渡しているところであった。


「兄貴……だよな?なんであんな格好なんだ?」

「あれはアルなのかニャン?」 

「お兄ちゃんなの?」

「ええ、背格好は一緒ですし、あんな大きな金棒を軽々と取り出す人なんて、アルフォンス様しかいませんよ」

「そうだよな……?」

「何でフードを被ってるんだ?」


 そんな会話が交わされる。

 すると、難しく考えるよりも先に身体が動く少女が、フードを被った小柄な人物に音もなく近づいていく。



 そして……。


「アル、何をカッコつけてるニャ〜………えっ?」

「「「「ええええええええええ!?」」」」


 そう言いながら、勢いよくフードをめくるチェシャ。

 すると、そこから現れた姿に、チェシャを始めとした子どもたちは一斉に驚きの声を上げる。


「もう。突然なのは、やめて下さいよぉ……」


 そう文句を言うアルフォンスの頭には、三角形のキツネ耳がちょこんと乗っていたのであった。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


What does the fox say?


キツネダンスをするアルフォンス……。

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