第142話 獣耳
獣人を現す言葉のひとつに【獣面】【半獣面】というものがある。
これは獣人の容姿を現す言葉であり、頭部か獣の頭そのものなのが【獣面】、人の顔に獣の耳が付いているのが【半獣面】と呼ばれている。
例えるなら、前者がグルックや【拳聖】バルザックであり、後者がチェシャであった。
そして今、キャロルたちの前には【半獣面】姿のアルフォンスが立っていた。
「ニャ〜〜〜!何事ニャ〜〜〜!!」
「ああああ、兄貴、何だそれ〜!! 」
「はあ〜、尊いです……」
「お兄ちゃん、かわいい〜!」
「アル君、何でそんな……でも、いいかも」
突然、獣人の仲間入りをしてしまったアルフォンスに対して、チェシャたちは驚きを隠せない。
「どうしたんですか、その姿は。すごく、すごくかわいいです」
「耳がキツネなのが、
「お兄ちゃん、お耳さわってもいい……?」
「何だよそれ、そんなかわいらしくなって。ボクを惑わせるつもりだな……」
「…………ウチの女性陣、メロメロじゃねえか」
ちょっとしたカオス状態に陥ったキャロルたち。
何が何やら分からないものの、アルフォンスのかわいらしさに胸の鼓動が収まらない。
そんな彼女たちが落ち着いたのを見計らって、アルフォンスが理由を説明する。
「実は………ちょっと、認識阻害の腕輪にいろいろと詰め込んだら失敗しまして……」
そう言って照れ笑いをするアルフォンスに、チェシャたちは身悶えするほど萌える。
「すごい、このお耳!ちゃんとふわふわしてる」
すると、ちいさな手をアルフォンスのキツネ耳に伸ばしていたアリスが驚きの声を上げる。
「ええっ!マジかよ!」
「ホントです。すごくふわふわしてます」
「どうしてニャ?」
「本物そっくりじゃないか」
「お兄ちゃん、どうして?教えて?」
幻影だと思っていたキツネ耳に、まるで実体があるような感触が伴っていたことに驚く一同。
するとアルフォンスは、よくぞ聞いてくれたとばかりに説明を始める。
「ええ、そこはすごく工夫したところなんですよ。本来は視覚の認識を阻害するだけのものを、触覚まで騙せるように魔法陣に手を加えたんです。具体的には……」
そこからは、とどまることを知らずにアルフォンスの超絶技術講義が始まったのだが、大人ですら難解と思うような理論を説明されても、スパーダたちには全く意味が分からなかった。
「ストップ、スト〜ップ!とっ、とにかく。その耳は、魔法陣で何か難しいことをいろいろやって、相手に実際に触ってるように誤解させてるってコトなんでしょ?」
すると、ララノアがそれまでのアルフォンスの説明を九割も端折って聞き返す。
「いろいろと思うところはあるんですが、概ねそのとおりです」
そして、アルフォンスは渋々ながらその言葉を肯定するのであった。
「でさ、それはいつ元通りになるんだ?」
「うん……魔力が抜ければ元に戻るはずなんだけど……」
「お兄ちゃん、まりょくがおおいもんね」
「そうなんだよ……。いつまでかかるかなぁ」
「わっ、私はたまにはそんな姿もいいと思いますよ……」
「ボクも、なかなか新鮮な感じがしていいかも」
「アルと一緒ニャ〜」
なかなか元に戻れそうにないアルフォンスと、それを好意的にとらえるキャロルたち女性陣。
「あら、こんなところに可愛らしい獣人さんが」
「ホントだぁ。カワイイ〜」
「キャ〜、私にも触らせてよ」
「なかなかのもふもふだね」
するとそこに、数人の村の女性たちが通りかかる。
そして、彼女たちもまたアルフォンスの獣人姿に心を奪われる。
たちまち、アルフォンスを取り囲んで、少年を抱きしめたり、頬ずりをしたりするダークエルフの女性たち。
「ちょっと【ディニエル】姉ちゃんダメだよ。離れて!【リキッタ】ちゃんも抱きついちゃダメ!【フィオーレ】姉はストップ!【セーラ】、アルくんは渡さないからね」
ララノアが必死で村の女性たちを止めようとするが、ちょっとしたマスコットと化してしまった、今のアルフォンスの周りに集まってくるのを止めることは出来なかった。
「ぐぬぬぬぬ、ちょっとケモ耳があるくらいで……」
「なんだ、アイツらは……そこまで人族の子どもがいいのかよ」
「いや、あれはあの少年だからじゃないか?」
「………………否定できないな」
「強くて優しくて可愛らしいだと?どこに俺たちが勝てる要素があるんだよ」
その様子を見て、血の涙を流さんばかりに悔しがるダークエルフの男たち。
とても数百年を生きる長命種とは思えない。
村の住人は、もとは同じ部隊に所属する同僚ということもあり、よっぽどお互いに恋愛感情がない限りは、恋人関係や夫婦にはなれずにいた。
その結果、この村で恋人同士や夫婦になったものは数えるほどしかいなかった。
それが、この村にララノアと同年代の友だちがいなかったひとつの理由でもある。
―――つまり、村の男たちの大半はモテない。
そんな寂しい男たちの目の前で、ちやほやされているアルフォンス。
彼らにとって、アルフォンスが不倶戴天の敵と認定された瞬間であった。
「おのれ〜、この恨み、晴らさずにおくべきかぁ〜」
「爆発しろ!」
「クソお、モテやがって……」
復旧中の村に、うだつの上がらない男たちの呪詛の言葉が響き渡るのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
いろいろと驚かせて申し訳ありませんでした。
単なる魔道具作成時の失敗でした。
それでも、ある程度の効果は出てるので、成功なのか?
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