第140話 従魔
先日の会議では、様々なことが明らかになった。
ララノアたちがダークエルフであること。
村の大人たちは魔王領域軍の残党であること。
そして、襲撃者たちは元村人であったこと。
彼らはとある目的のために、村から【
彼らの目的を成就させるためには、それほど時間がないことから、近々再び襲ってくることは確実。
そのため、グルックたち……というか、アルフォンスが力添えするため、村に数日間滞在することになったのだ。
住人がことごとく病に伏している故郷の村が心配で、一刻も早く帰りたいであろうキャロルたち元奴隷の少年少女たちも、目の前の問題を放置はしておけないと滞在することに了承していた。
「このまま、ララちゃんの村を放っておくことは出来ませんよね」
「ララたちを見捨てたなんて知られたら、きっと村のみんなに怒鳴られると思うんだ」
「ウチの村はまだ大丈夫……大丈夫ニャン」
「ララちゃんたちをたすけてあげて」
そんな少年少女たちの声に突き動かされて、グルックも渋々ながらアルフォンスが何かと手助けするためのここ数日間の逗留を決意したのだった。
今日のアルフォンスは、従魔たちへの武器を提供するために、村のあちこちに行く用事があるため、ララノアやキャロルたちとは別行動となっていた。
また、村の人々は、被害に遭った建物などの片付けや修理、次の襲撃に対する準備や後片付けに追われていて、ララノアたち少年少年を構っている暇がなかった。
そこで時間を持て余したキャロルたちは、村の広場に集まってララノアの従魔を見せてもらうことにしたのだった。
今日のララノアは、認識阻害の腕輪を外し、アルフォンス曰くかわいいエルフ耳を晒していた。
腕輪があると、何となく違和感があって、彼女自身は好きではないらしい。
なので今日は、実に晴れ晴れとした表情をしていた。
「【ステラ】おいで」
広場の中央で彼女がそう呼びかけると、鮮やかな空色の体と、黒く長いくちばしが特徴的な小さな鳥がやって来た。
その鳥は、ララノアの指先に留まると、チチチチと甲高い声で鳴く。
「うわぁ、かわいい」
「おおっ、スゲ〜な。ホントにやってきたぞ」
「かわいい鳥さんだ〜」
「ちっちゃい鳥ニャン。これは魔物なのかニャン?」
「失礼だな。ちっちゃいけど、れっきとした魔物だよ。【アルキュオネ】って種類なんだ」
「へぇ〜、それはすごい、すごいニャン」
相棒を小さいと言われて、ムッとしてそんな反論をするララノア。
「でもさ、こんなに小さかったら戦いには向かないよな」
「まあね、でも飛べるからね。敵を見つけたり、誰かを探したりするのは得意だよ」
「そう、そんな役目もあるのね」
「おりこうさんなんだね〜」
「ん?だからこの前は、村の外に出てたのかニャン?」
ふと、チェシャはひとつのことに思い至る。
それは、ララノアと出会ったきっかけとなった数日前の出来事についてだった。
「うん、あのときはボクがお願いして探しに出たんだよ……知らない仲じゃないからね」
ララノアは、少し言いにくそうにそう答える。
件の襲撃者たちの正体が、村から出奔した者たちだと聞いていたため、キャロルたちはララノアの心境を慮って、何と声をかけていいのか言葉に詰まる。
「それよりもさぁ、何だよあの弓の兄ちゃん。ウチのステラが先に気づいて【ドゥクス】たちに警告してたから、何とか避けられたけどさ。放たれた矢が、3つにも4つにも分裂して降ってくるんだよ」
少し暗くなった雰囲気に気づいたララノアが、あえて明るい話題に話を向ける。
こんなところが、大人ばかりの村で生活しているララノア良さであり、欠点でもあった。
前者は人の気持ちを汲むことができることで、後者は子供らしさからはやや遠くなってしまうこと意味していた。
「クリフ兄ちゃんか?あれは、すげ〜よな。神業だぜ」
「ダークエルフにも弓が得意な人は何人もいるけどさ、あんなの見たことないよ」
「なかなかいないよな。あんな達人…………でもさ、兄貴はそれ以上なんだよ」
スパーダは、大好きなアルフォンス自慢が出来るとあって、ニャリと不敵な笑いを浮かべてそう告げる。
「アルくんが!?嘘だぁ〜。さすがにそこまで出来たらバケモノだろ、バケモノ」
「いや、ホントなんだって」
「クリフさんの師匠は、アルフォンスさまですからね」
「お兄ちゃんは、剣も魔術も弓もとくいだよ。あと、いろんな物をつくるのも」
「ホントなのかよ」
「しかも、あのバカ犬まで手懐けてるニャン」
「うわぁ、さすがだね。マジで魔王が来てもアルフォンス君ならやっつけちゃうんじゃない?」
「それな。冗談だって否定できないよな……」
そんな会話をする子どもたち。
ふと、キャロルが思いついたことをチェシャに尋ねる。
「ところで、魔物っていろいろ人とは違う能力を持ってるんでしょ?」
「ああ、魔物によっては火を吹いたり、影に潜ったりするのもいるよ」
「じゃあ、その子には何か特別な能力はあるの?」
そう言って、何気なく聞いただけであったが、それが思わぬ幸運を呼び込む。
「この子はね、ちょっとした病気ならすぐに直しちゃうんだ」
それこそが、彼女たちが奴隷に身をやつしてまで求めたものであった。
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