第139話 修理
「じゃあ、アル君はボクが【ダークエルフ】だって最初から分かってたのかよ?」
「うん。ララのカワイイ耳はずっと見えてたよ」
「バッ、バカあ。そういうことは、ちゃんとお付き合いしてから……ごにょごにょ」
「ん?」
特徴あるエルフ耳を褒められて、ララノアは顔を真っ赤にして恥じらう。
アルフォンスとしては、ハイエルフの師匠からの教え「エルフを見たら、とりあえず耳を褒めておけ」を実践したまでなのだが、想像以上に過剰な反応があってうろたえていた。
「アルフォンスさま〜、ダークエルフが耳を褒められるのは、プロポーズされるのと同じことのようですよ〜」
そこにキャロルが、静かにララノアが恥らっている理由を告げる。
「ええっ!?それは、ゴメンね。そんなつもりは……」
「そうだよな…………それはそれで何かムカつく」
慌てて否定するアルフォンスと、肩を落としてつぶやくララノアがそこにいた。
サイクロプスの襲撃や、村人たちの正体が判明してから一夜が明けた。
キャロルやチェシャ、アリスは、同じ部屋に寝泊まりしたこともあり、ララノアと一晩中話し込んで仲を深めていた。
そこで、彼女たちはダークエルフの習慣についていろいろと聞くことになる。
ダークエルフ式のプロポーズについても、そのときに聞いていた。
そして、ララノアは将来の夢について「いつか自分の耳を褒めてくれる人のお嫁さんになる」と話してもいたのであった。
まさか、いきなりアルフォンスがエルフ耳を褒めるとは思わず、衝撃を受けたキャロルたち。
耳を褒めることの意味を伝えたキャロルが、生気を失った幽霊のような冷たい表情になっていたことはやむを得まい。
「シシシ、兄貴ってけっこうやらかすよな……」
慌てふためくアルフォンスを見て、スパーダはそう笑いかける。
「僕を何だと思ってるの?まだまだ未熟者だよ」
「う〜ん、兄貴って強いし何でも出来るんだけどさ、キャロ姉やチェシャ姉に振り回されてる姿を見ると、何かそこまでの迫力を感じないんだよなぁ」
「スパーダぁ〜」
何となくバカにされた気がして、アルフォンスはスパーダににじり寄る。
すると、頭に何やら柔らかいものが触れた感覚がしてアルフォンスは後ろから抱きしめられる。
「アルは、これくらい抜けていた方がいいのニャ。あんまり完璧すぎると、ニャの旦那様としては息苦しくなるのニャ」
アルフォンスの頭を、チェシャが後ろから抱きしめたのだった。
そうなると、ふたりの身長差からアルフォンスの頭にチェシャの豊かな胸が押し付けられる。
「なっ、何をするんですか。離してくださいよ」
「どうニャ。なかなか強くなったニャン」
ここ最近、ショコラと特訓し続けていたせいで、意外と力もついてきた猫獣人の少女。
アルフォンスと言えども、そんな少女に頭を抑えられれば、相手を傷つけることなく無力化することは至難の業だ。
「離してください」
「い〜や〜ニャ〜」
奴隷のときの
だが、将来の夫と宣言するだけあって、アルフォンス相手には率先してお触りするのであった。
「なぁ、あれは協定違反じゃないのかよ」
「あとでしっかりお話しときます」
不穏な会話をするララノアとキャロル。
すると、そんな騒ぎをよそにじっと集中して作業をしていたアリスから、喜びの声が上がる。
「できたぁ〜!」
その声に驚いて、一瞬の隙が出来たチェシャの束縛を、するりと逃れたアルフォンスは、まだ顔の赤みが引ききれないながらも、平静を装ってアリスの成果を確認する。
「……ふぅ。どれどれ。ああ、上手くできたね?ちゃんと魔力が充填されてるよ」
「ホント?アリス、えらい?」
「えらい、えらい」
「えへへへっ」
アルフォンスが褒めながらアリスの頭を優しく撫でると、少女はとろけたような笑顔で喜ぶ。
襲撃の翌日、アルフォンスは村の工房を借りて壊された
そして、ララノアやキャロルたち同年代の子供たちは、その手伝いとして工房にやってきていたのだった。
ほとんど邪魔ばかりしているが……。
そして、アリスは魔力制御の訓練の一環として、修理を終えた魔道具に魔力を注入していたのであった。
それが、たった今終わったのだった。
しかも、アルフォンスが上出来と褒めるほど完璧に。
「結局、こんなにいてもちゃんと仕事してたのはアリスだけじゃねえかよ」
馬の世話を終えて、工房に顔を出したギルは、カオスな状況にそんな感想を漏らすのであった。
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