第134話 予想
「アル君!ありがとおおおおおおお!」
グルックと別れたアルフォンスのもとに、ララノアとキャロルたちがやってくる。
中でもララノアは、村を助けてくれた小さな英雄に、大げさなくらい感謝の言葉を告げる。
「ホント……ホントに、君がいなかったら……ありがとう。ありがとう」
確かに嬉しいのは事実であろう。
だが、それは自分の故郷が蹂躙された悲しみを隠すために、あえて元気なふりをしているのだと、その場にいる少年たちはよく理解していた。
それが分かるからこそ、アルフォンスはララノアに、何と声をかけていいのか分からずにいた。
「ガウッ」
すると、そんなアルフォンスを見かねたのか、トコトコと黒い毛並みの子狼がララノアの前までやってくると、じっと彼女を見つめる。
その様子を見たララノアは、子狼を抱き上げると、その身体を撫で回しながら、こちらにもお礼の言葉を告げる。
「ショコラちゃん、君もすごく強かったんだね。君が巨人をひっくり返してくれなかったらもっと酷いことになってたよ〜」
撫で回されながら、そんなお礼を受けるショコラ。
非常に迷惑そうな顔をしながら撫でられているが、その実、ふわふわな尻尾が大きく揺れることだけは隠せない。
「ショコラもすっげ〜強いのな」
「ショコラちゃん、カッコよかったです」
「ショコラちゃん、つよかわいい」
キャロルたちも続けて、ショコラをベタ褒めするため、もう尻尾はバッサバッサと振れている。
どうやら超ご機嫌らしい。
だが、そんな中でもたったひとりだけは、ショコラを褒めることをしなかった。
「嫌な顔して実は喜んでるなんて。ズルい。実にズルいニャ。そうして、ツンデレな狼を演出するなんて、卑怯者ニャ」
「………ガァ?」
それは、普段から訓練を共にしているチェシャであった。
腰に手を当ててふんぞり返っているその姿は、まるで悪役令嬢を断罪するヒロインか、犯人を言い当てる探偵のようだ。
「ガァァァァ?」
んだとぉ?とでも、言いたげなショコラに対してチェシャは言い放つ。
「お前はあざといカマッてちゃんニャ!」
バ~ンと効果音でも流れそうなほど、指摘をするチェシャは様になっていた。
―――だが。
「ぶふおっ」
チェシャの綺麗な顔に、ショコラの前足がめり込む。
「えっ?いつの間に?」
そうララノアも驚くほどに、一瞬の出来事であった。
さっきまで胸に抱いていたはずのショコラが、今はもうチェシャを追いかけ回している。
「ニャ~、このバカ犬〜!」
「ガアウ、ガウ!」
こうして、いつもの追いかけっこが始まるのであった。
「アハハハ、チェシャちゃん、逃げろ〜!」
すると、ララノアからは、先ほどまでの無理に作った笑顔ではなく、普段のごく自然な笑顔がこぼれ出る。
どうやら、気持ちをうまく切り替えられたようだとアルフォンスは胸を撫で下ろし、あえて(?)道化を演じてくれたチェシャに心の中で礼をする。
「はーあ、もうチェシャちゃんは、いつもそうだよね。何があっても自然体で。ボクも強くならなきゃね」
「無理はしない方がいいよ。でも、落ち着いたかい?」
「ああ、アル君。心配かけてゴメンね」
「いや、別に構わないよ」
「でも、ずいぶんとやられちゃったな……。村長や仲間の魔物たち、麦畑もひどく傷ついちゃった……」
冷静に周囲を見られるようになった彼女が、改めて村の惨状にそんな感想を漏らす。
「そうだね………。それじゃ、やれることをやってみようか」
「えっ?」
するとアルフォンスは、ララノアにひとつの提案をする。
「じゃあ、怪我をした人や仲間の魔物を、ここに集めてくれないかな?」
突然の申し出にララノアは戸惑う。
だが、かつては自らも助けられたキャロルたちは、これからアルフォンスが何をしようとしているのかを察し、とたんに表情が明るくなる。
「アルフォンスさま……」
「兄貴ッ!」
「お兄ちゃん、たすけてあげるの?」
何故、少女たちがそんなに喜んでいるのか理解出来ないララノア。
するとそんな彼女に、キャロルたちがこれから行われるであろうことを説明する。
「アルフォンスさまが、これから怪我を癒やしてくれるってことです」
「兄貴の治癒魔術ってスゲーんだぜ!俺なんてあちこち骨折してたのに、あっという間に治っちまったんだから」
「アリスもおてつだいする?」
そんな説明を受けたものの、いまいち理解出来ないララノア。
そこに、傷の深い村人たちを抱えて【
「おい、そいつは重傷なんだぞ!下手に動かすな」
「テメエら何を考えてやがる!」
「お前ら、もしものことがあったらただじゃおかねえぞ!」
「あなた達、早く彼を降ろしなさい」
そんな罵声を浴びせる村人たちを引き連れて。
「とりあえず、動かしても問題が無さそうな者だけを連れてきた」
「瀕死の者には【
「ついでに、軽傷な村人もついて来ちゃったンスけど、大丈夫ッスよね?」
「一緒に戦った魔物も連れてきた」
「浮かせてるから、問題ない」
「ありがとうございます」
「なあに、我々も付き合いが長いからな」
「何をするかお見通しだぜ」
「ってか、もう自重する気はないってことでいいンスよね?」
「ええ、グルックさんにもそれでいいって言われたので」
「狐のくせに生意気な」
「狐のくせに
そして、【
「アルさん、村人が煩いんで、まずはこれくらいの人数を癒やして欲しいッス。で、治った端から仲間を迎えに行かせることにしましょう」
「その方が良さそうですね」
クリフの提案に、アルフォンスがうなずく。
一緒についてきた村人たちが、今にも殴りかからんばかりにヒートアップしていたからだ。
すると、その会話を聞いた村人たちは、その言い方に反発する。
「お前らふざけんなよ!」
「アイツの傷がどれだけ深いか分からんのか!」
「絶対に許さんぞ!」
「あなた達も敵よ!」
比較的元気な村人たちから、次々と罵声が飛ぶが、アルフォンスはそれを一切無視して詠唱を始める。
「な、なぁ、何が始まるんだ?」
「大丈夫です。しっかり見ていて下さい」
これから何が起きるか不安になったララノアがそう尋ねると、キャロルは優しく諭して落ち着かせる。
そして、ついにその時がやってくる。
「――癒せ。【広域治癒(ラトゥム・サナーレ)】」
アルフォンスが詠唱を終えると、少年を中心に光のドームが現れる。
――――そして。
「治った!?治ったぁぁぁぁぁぁ!!」
「ウオオオオオオオオオン!」
「ドゥクスーーーーー!」
「奇跡!奇跡だぁぁ!」
「神だ……神がいた」
「ああああ……ありがとう、ありがとう、ありがとう」
傷が癒えた村人や魔物たちから、大地を震わすかのような歓声が上がる。
自然に土下座をして感謝している村人たちに、アルフォンスは告げる。
「分かっていただけましたか?生きてさえいれば、あとは全て僕が癒やします。すぐに怪我をしている人や魔物を連れてきて下さい」
「「「「「「はい!!!」」」」」」
先ほどまでが嘘のように。手のひら返しをする村人たち。
彼らは先を競って怪我人たちを迎えに行く。
「はぁぁぁぁぁ……。ここまで見事に手のひら返しをされると、怒る気力も無くなるッスね」
それを見送ったクリフは、散々罵倒されていたことを今でも根に持つのであった。
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