第133話 弁解

 サイクロプスを一閃で倒したアルフォンスであったが、戦い(とも言えないほどだが……)を終えるとポツンとその場に立ち尽くしていた。

 

 やってしまったのはいいが、何となく気まずい雰囲気。


 そして、それに輪をかけて、村人たちがまるで化け物でも見るかのように、遠巻きにこっちを見ているのも原因のひとつだった。


 ひしひしと感じる疎外感とでも言おうか。


 そんな居心地の悪さを感じながらも、さてどうしようかなと考えている少年のもとに、ニヤニヤしながらグルックがやってくる。


「おお〜おお〜、ずいぶんとハデにやらかしたな〜」

「え〜と、麦畑を荒らす魔物を倒しただけなのでセーフ?」


 そう、慌てて取り繕うアルフォンスの頭をグルックが平手で殴る。

 手荒い行為ではあるものの、変に自分のことをを意識しない、そんな態度がアルフォンスには心地よかった。


「セーフなワケあるか!このバカ野郎!」

「でも……」

「でもじゃねえよ。俺は、よく見極めろって言ったよな?」

「ええ、言われました」

「で?どう決めたんだよ」

「えっ?」

「自分で全て決めてやったことなんだろ?」

「まぁ……」

「おいおいおいおい、決めたのか決めてねえのか、どっちなんだよ?」

「決めてました!ちゃんと。何かあれば責任も取ります」

「まあ、言っといて何だがよ。んな、いちいち責任だの何だのって難しいことばかり考えてんじゃねえよ。責任なんてのは、大人が取ることなんだ。ガキはガキらしく、やりたいことをやりゃあいいんだよ」

「えっ?」

「要するに、お前は自分が正しいって思うことだけやってりゃいいってコトだ」

「えっ?だって前に……」

「ありゃあ訂正する。いろいろ考えるのは凡人だけだ。規格外なお前とじゃ全く違う」


 ここに至って、グルックは自分が大きな思い違いをしていたことに気づく。 


 この世界には、自分の心のままに動いても非難されない者が存在する。

 それが、勇者であり、英雄と呼ばれる者たちであった。

 彼らはその大いなる力を持つが故に、人のしがらみに囚われることなく、我を通すことが許される。

 

 いわゆる【ゲームチェンジャー】とも呼べる存在であった。


 力ずくで盤面をひっくり返せるほどの力を持つ者だからこそ、仮に選択を間違えたとしても、それを優に取り返せるだけの功績を得ることも不可能ではないのだ。


 そして、目の前の少年もまた、そんな英雄たり得るだけの存在であった。


(英雄サマを凡人の枠に収めようったって、そりゃあ無理な話だな……) 


 グルックはそう納得する。


(そんで、英雄サマを前にした俺たち凡人なんては、せいぜいその偉業のフォローでもしてろってか?)


 そして自分の立場を自虐的に嘲笑うも、彼はそれをすぐに否定する。


(冗談じゃねえ!誰がこんな小僧の下で、ヘコヘコとフォローなんてするかよ。やるからには、せいぜい利用して儲けてやる)  


 生来の天邪鬼あまのじゃくと負けず嫌いが、英雄にへつらう生き方を良しとしなかったのである。

 グルックが、そんな風に決意を新たにしたとは気づかないアルフォンスは、さんざん憎まれ口を叩かれていることに抗議する。

   

「グルックさん、何かさっきから言い方にトゲがありませんか?」

「うるせぇ!さっきも何も、ずっとお前に対してはトゲだらけだ。だいたい、お前は化け物なんだから、人様のやり方なんざをいちいち気にするんじゃねえよ」

「うわっ、なんですか。それは心外です」

「はぁぁぁぁぁ?じゃあ何て言えばいいんだ?ボクは、人よりもちょっと異常に強いだけの一般人ですってか?」

「…………何かものすご〜く悪意ある言い方じゃないですか?」 

「それがどうした。俺は元からこんな性格だ」

「はぁ……」


 いい年をした大人が、自分の年齢の半分にも満たない少年に本気で文句をたれる。

 傍から見れば、ものすごくみっともない姿である。


 グルックが散々嫌味を言うと、アルフォンスが目に見えて落ち込んでしまう。

 グルックはその姿を見て、ちょっと言い過ぎたかなと思ってしまったことがいけなかった。

 ポロリと本音が漏れてしまったのだった。


「…………まぁ、なんだ。その、お前は良くやったよ」

「えっ?今、何て言いました?」

「知らねえ」

「聞こえなかったんですよ。もしかして、僕のこと褒めてくれました?」

「聞こえてんじゃねえか!」

「聞こえませんよ。だから、もう一回言って下さいよお」

「二度と言うか!バカ!」

「ぶ〜ぶ〜!ケチですか?」

「うるせえ!うるせえ!うるせえ!どうせこれから回復とかもするんだろ。なら、さっさとやれ。とっととやれ。こっちはこっちで、うまい汁を吸ってやるから」


 そんなやり取りを経て、何となく気持ちが軽くなるアルフォンス。

 先ほどまでの居心地の悪さなど、瞬時に吹き飛んでしまう。

 そこには、グルックがアルフォンスの心情を慮って、あえて憎まれ口を叩いたのではないかとすら思えてくる。



 アルフォンスは笑顔を浮かべると、グルックの捨てゼリフに素直に礼をするのであった。


「はい、ありがとうございます」


 


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