第120話 阻害
「そうですね、この四方に立っている
アルフォンスか指差した先には、複雑な彫刻がされている一本の柱が立っていた。
またその彫刻は、ところどころが極彩色に塗られており、とても芸術性の高いものとなっていた。
「……わざわざ聞いておいてなんなんだが、分かんのかよ」
グルックは、思わずそうつぶやく。
彼は、もはや嫉妬すら諦めた様子で、アルフォンスの説明に耳を傾けるのであった。
「おそらくは、対象を周囲に同化させる類のものかと。結界とは違って外部から見えなくするだけのもののようですね。もっとも、その分だけ魔力の消費が抑えられるので、長い間使い続けるには最適ですね」
そこまで説明したアルフォンスに、チェシャが尋ねる。
「ニャンでそこまで分かるニャン?」
「多少、魔道具作りもかじったことがあるもので……」
「はぁ?」
「周囲の状況と、引き起こされた事象からある程度は推測出来ますよ」
「そう、そこだよ。俺たちなんていきなり景色が変わったとしか思わなかったぞ」
スパーダが更なる疑問を投げかける。
「普通と違ったことが起きれば、何かされたって思うのは当然だろ」
「だからってさあ…」
「それに今回は、ちゃんと魔力の動きも感じられたしさ」
「へっ?」
「途中で、見えないカーテンをくぐったような感じがしなかったかい?」
「全然」
「アリスはどう?」
アルフォンスは、魔力に優れており、魔術師としての訓練を続けているアリスにそう尋ねる。
「あれがそうなのかな。さっき、ふわっとしたかんじがしたよ」
「それが魔力の動きだよ。中には方向性を狂わせたり、味方のことを魔物と錯覚させたりするような凶悪な魔道具もあるから、その感じがしたら気をつけてね」
「うん!」
アルフォンスは、ちゃんと周囲の魔力の動きを感じ取ることができた、幼い少女の頭を撫でる。
「えへへへへっ」
撫でられた本人は、弾けんばかりの笑顔だ。
そして、そんなやり取りを耳にしたイーサンは、ふと、そう遠くない昔に、同じようなことがあったなとは思うものの、それが何だったか思い出せずにいた。
ちなみに、イーサン本人も言われてみるとといった程度ではあるが、つい先程の魔力の動きは感じ取れていた。
魔術師としては、かなり優秀な部類と言えるであろう。
そんな会話をしていたアルフォンスの隣では、ララノアが驚きすぎて二の句が継げずにいた。
「あっ、あれ……」
「アルフォンスさまのこと?」
その様子を見かねたキャロルが、ララノアにそう話しかける。
ララノアはその問いかけに、口を半開きにしたまま無言でうなずくことで、自分の気持ちを伝える。
「すごいですよね……。あんなに優しいのに何でも知っていて……。それに、魔術も剣術も一流なんですよ」
そう頬を染めて褒めちぎるキャロルの姿に、かえってララノアは落ち着きを取り戻すのであった。
(…………いやいやいやいや、そんな英雄様方みたいな人がいるわけないでしょ)
実際に目の前にいるのだが、彼女はまだアルフォンスの力量を知らずにいるため、真実にたどり着けずにいた。
(アルくんって、すごく物知りな人なんだろうな。だから、魔道具のことも知ってたんだね。でも、魔力の流れがどうのこうのってことはよく分からないや)
ゆえに、自分に都合のいいように解釈する。
(頭のいい彼氏かぁ。分からないことを、優しく教えてもらうってのもアリかも……)
そして、結局のところ彼女は、身勝手な未来予想図に思いを馳せてしまう恋愛脳なのであった。
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