第121話 村里
こうして、さまざまな紆余曲折、百人百様の思いを抱きながら、【
村の入口には多くの人々が集まって来ており、ララノア曰く外部から客が来たことがないというほど孤立した村の、一大関心事になっているのは間違いなかった。
集まってきた村人たちを見れば、みんなララノアと同様に褐色の肌と白い髪といった特徴を持っていた。
フランシスが、そっとララノアに尋ねる。
「みんな同じ特徴だね?こっちの方の人じゃないのかな?」
「うん、南の方から来たって話」
「ああ、なるほど……」
確かに王国南方の人々は、褐色の肌の人々が多いなと、フランシスは納得する。
「狼に襲われていたララノアを助けて連れてきた。誰か代表者はいないか?」
「今、村長が来るから待っててほしい」
グルックが遠巻きに見ていた村人にそう話しかけると、ひとりの女性がそう答える。
「しっかし、この村にゃ、美男美女しかいねえのかよ……」
そうグルックが独りごちるほど、村の人々は容姿に優れた者ばかりであった。
村長を待つ間、アルフォンスはぐるっと見渡して村の様子を窺う。
その村は、腰ほどの植え込みで区切られた大通りを挟み、その両側には木組みの家が立ち並んでいた。
また、それら多くの家の軒下には、さまざまな草花が植えられており、色とりどりの花々が村に華やかさを添えていた。
ひとことで言うなら、自然と共存した村といった感じだろうか。
名もなき村は、どちらかと言えば無駄を一切取り除き、外敵に備えた質実剛健な村だったこともあり、目の前の花々が咲き誇る村はアルフォンスにとっては、とても新鮮に見えた。
「すごくキレイな村だね」
「そうかな?他の村を知らないから、よく分からないや。でも、住んでいる村を褒められるのはいい感じだね」
アルフォンスの率直な感想に、頬を緩めるララノア。
すると、商隊を遠巻きにしていた村人たちの中から、ひとりの青年が歩み寄ってきた。
その姿はララノア同様に、褐色の肌に白い髪、二十代後半から三十代くらいの容姿端麗な男性であった。
「あっ、村長!」
「おお、おかえりララ。その様子だと、ずいぶんと良くしてもらったみたいだね」
「うん、みんな友達だよ」
「そうか、それは良かった」
村長と呼ばれた男が、満足そうにうなずく。
「こんなところで立ち話も何でしょうから、是非とも私の家までお越し下さい」
「ああ、大勢で悪いな」
「いえいえ、こちらこそ。大切な子どもを送り届けて下さったのですから、お礼をせねばバチが当たります」
「いや、そんなに大したことじゃないから、気にはしないでくれ。だが、少しお願いしたいことがあるんでお邪魔させてもらえるか」
村長とグルックがそんな会話を交わす。
こうして、【
みんなが移動することに気づいたショコラが、馬車から降りて来たのだった。
「……ガウ?」
今では当たり前過ぎて、隊商の誰もが気にしなくなっていたが、ショコラは魔物。
その漆黒の毛並みの子狼に、村の住人が騒然となる。
「うわぁぁぁ!」
「あっ、あれは……」
「バカな!なんでここに……」
そんな声が上がる。
「すっ、すみません!」
アルフォンスが慌ててショコラを抱き上げて、害がないことをアピールする。
「大丈夫です。ほら、こんなに大人しいですし」
アルフォンスは、多少引きつった笑みを浮かべながらも、必死に説明を続ける。
だが、緊迫した雰囲気は変わらない。
アルフォンスが、気を落としそうになると、そこへララノアがフォローに入る。
「大丈夫だってば!こんなかわいい仔なのに。何慌ててるの?アルくん、ボクにも抱かせて」
そう言ってララノアが、アルフォンスからショコラを受け取る。
「……ンガ?」
突然、抱っこされる相手が変わって戸惑うショコラだったが、ララノアの抱き方が上手だったようで素直になすがままにされる子狼。
そこに魔物特有の野生は一切見られなかった。
すると、周囲の人々からクスクスと含み笑いが聞こえてきた。
「あんなに人に慣れるんだな……」
「気のせいみたいね」
「た、助かったぁ……」
あちこちから、そんな声が聞こえてきて場の空気が弛緩する。
どうやら、村の人々はララノアの抱く子狼の姿を見て警戒するほどのことではないと納得したようだった。
こうして、ショコラもレナス村の人々に受け入れられることとなったのであった。
ララノアは、胸元のショコラに話しかける。
「ショコラちゃん、かわいい〜」
「ガウッ♡」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます