第119話 麦畑
その景色は、スクリーンが切り替わるかのように、突然眼前に現れた。
一面に広がる麦畑を見た【
「バッ、バカな!さっきまで何も見えなかったぞ……」
「いきなり麦畑が現れたねぇ」
「某たちは、決して油断はしていなかったはず」
「突然だぞ、突然」
「これほど川に近い村や麦畑が、一切地図にも載ってないなんて、おかしいッスねぇ」
「イーサン、どういうことだ?」
「分からない……。でも、何らかの魔術だとは思う……」
大人たちは、どうしてこのようなことが起きたのか、その原因について真剣に話し合っているのだが、馬車の二階にいた子どもたちは、今まで見たこともないほどの見渡すばかりの麦畑にただただ大盛りあがりだ。
「どうだ、ボクの住む村だ!」
ララノアが得意気に胸を張ると、スパーダが素直に感想を述べる。
「なんだよこれ!すげえよ!すげえよ!」
だが、惜しむらくは語彙が乏しいため、同じ言葉を繰り返すだけに留まってしまう。
「ホントにすごいね。ララちゃん、村にはどれくらいの人がいるの?」
これほどまでの畑を作るのには、どれほどの人員が必要となるのか、キャロルはそれを知りたくてララノアに村の人口を尋ねる。
「ん〜と、50人くらいかな?」
「ごっ、ごじゅうにん!?」
キャロルはその答えに、目を見開いて驚く。
これほどまでの麦畑を作るには、あらゆることが順調に進んだとしても、少なくともその倍は必要だと予想していたからであった。
「ねぇ、何か秘訣があるの?」
「…………あ〜っ、それはまぁ、秘密ということで……」
せっかく仲良くなってきたのに、秘密だと告げなくてはならないことに、ララノアか眉間にシワ寄せる。
「あっ違うの。ウチの村は、あんまり食料事情が良くないから、参考になればって思っただけだから」
「いや、そういうことじゃないんだけど……、ボクが話していいのか判断がつかないから……」
ララノアが申し訳なさそうに言い訳をする。
同様に、ララノアにそんな表情をさせてしまったことに、キャロルが謝罪する。
せっかくのキレイな景色を前に、何とも微妙な雰囲気になるふたりであった。
「おい、小僧!これはどうしたことだ!?」
大人たちが知恵を出し合うものの、いっこうに結論が出ないことに苛立ったグルックが、アルフォンスに尋ねる。
変なプライドを投げ捨てて、素直に分かりそうな者に聞くことができるようになっただけでも、グルックの成長の度合いが窺える。
もっとも、相変わらず口が悪いことは変わらないが。
「ごめんなさい。それも……」
自分がグルックに尋ねられたのだと勘違いしたララノアが、村の秘密を口外できず、とっさに謝罪する。
すると、アルフォンスがララノアの発言を片手を上げて遮る。
問われているのは自分なのに、わざわざ謝る必要はないからと。
「そうですね、【
「えっ?」
聞かれたアルフォンスは、さも当然のように答える。
そして、アルフォンスの的を射た答えに、唯一正解を知っているララノアは青ざめてしまうのであった。
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