第117話 協定
「抜ケガケハシナイ……ハシタナイコトシナイ……アルフォンスサマヲ困ラセナイ……」
しばらくしてキャロルとララノアが戻ってきた。
ふたりが手を繋いで歩いている姿を見て、この短い間に、ずいぶんと仲良くなったのだなぁと、アルフォンスは驚いている。
ララノアは、目のハイライトがなくなり何かブツブツとつぶやいているが、キャロルが満面の笑みでいるのを見ると、どうやらお話もうまくいったのだろう。
「うわぁ……。キャロ姉のOHANASHIって、淡々と理論立ててやられるから、あっという間に心が折れるんだよなぁ……」
隣でスパーダが眉間にシワを寄せてそんなことをつぶやいているが、アルフォンスは気づかない…………ことにした。
「アルフォンスさま、もう大丈夫です。ララちゃんとは仲良くなりました」
「……ハイソウデス」
どこか心ここにあらずの雰囲気はあるが、問題はなさそうだ。
「それで、ララちゃんに村まで案内してもらうことになりました」
「……ハイソウデス」
キャロルがふたりで話し合った結果を楽しそうに伝える。
またその時に、ララノアが大人たちに失礼な態度だったことについても、よく言い聞かせてくれたようだ。
「その前に、ララちゃんから皆さんにお話しがあります」
「失礼な態度でごめんなさい。言えないことがいっぱいあったから……。いろいろと良くしてもらったのに、ごめんなさい」
キャロルが促すと、ララノアは一瞬躊躇するも、覚悟を決めると勢いよく頭を下げると。素直に謝罪した。
すると、クリフは優しく微笑むと、その謝罪を受け入れる。
「そうならそうと先に言ってもらえたら、根掘り葉掘りなんて聞かなかったッスよ」
「…………はい」
「いや、怒ってないッスよ。ただ、心配だっただけなンス」
「うん、ごめんなさい」
ララノアは、傍から見れば、心の底からこれまでの自分の態度を悔やんでいるように見えた。
その様子から周囲の面々は、ララノアが悪い人間ではないことを悟る。
だが、いくら謝罪されても、先ほどまでの失礼な態度に収まりがつかない者もいた。
言わずと知れた、心が狭いことに定評があるグルックであった。
「最初から……モゴ、ウゴッ」
また余計なことを言いそうになったので、フランシスが両手でグルックの口を塞ぐ。
「はい、余計なことは言わないの。それで、ララノアさんの住む村には一緒に行くことで良いのかな?」
そう尋ねたフランシスに、ララノアはゆっくりとうなずく。
「なら、決まり。すぐに移動しようか」
そうフランシスが一同に指示をする。
すると、必至に左右に首を振るグルック以外には、誰も異論はないようで、すぐに場所を移動する準備が始まる。
「はっ、そうだ連絡しとかなきゃ」
時間経過により、正気を取り戻したララノアは、これからグルックたちを同行して村に向かうことを、事前に村へ連絡することにする。
彼女が空に向かって指笛を吹くと、カラスほどの大きさで、新雪と同じ色の羽根を持つ鳥が、どこからともなくやってきては、ララノアの肩に止まる。
何という種族かは判然とはしないが、普通の鳥のようだ。
「うおっ、すげえええ!」
「かわいい。とりさんだぁ」
スパーダやアリスに褒められて、満更でもない表情のララノア。
「この程度なら。毎日欠かさずに世話をしていれば、いつかは出来るようになるはず」
そう言って謙遜する。
彼女はその鳥に何事かを呟いて、その喉元を指先でひとなでする。
するとその鳥は、澄んだ鳴き声を響かせながら大空に飛翔すると、またたく間に見えなくなってしまう。
一同がララノアの様子を見守っているところに、ちょうど子狼の【ショコラ】が帰ってくる。
「あっ、ショコラお帰り。問題はなかった?」
「ガウ」
アルフォンスが戻ってきたショコラにそう問いかけると、彼女は問題ないとばかりにひと吠えする。
この場にたどり着く直前に、アルフォンスはショコラに周辺の警戒をお願いしていたのであった。
「おおっ、その子がアルの相棒なんだね。ってか、何だこの子狼?」
一方で、ショコラのことを初めて見たララノアは、その圧倒的な存在感に驚きを隠せないでいた。
ともかく、こうして狼に囲まれていた少女は、アルフォンスたちとともに、村へとむかうのであった。
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