第116話 進展

 ララノアの積極的な態度にタジタジとなりながらも、アルフォンスは情報を得るために会話を続ける。


「それにしても【優しい太陽】ですか。名前のとおり雰囲気がピッタリですね」 

「えっ?ボクたちの言葉が分かるの?」

「少しだけですけどね」  

 

 こんな会話を交わすと、ふたりは笑い合う。

 先ほどまでの少女のピリピリした雰囲気が霧消し、どことなく弛緩した空気が流れる。


「ララノアちゃんの住んでいるところは、この近くなンスか?」


 二人の会話がひと区切りしたのを見計らって、クリフが尋ねる。

 だが、彼女は答えない。


「ケケケ、徹底して嫌われてんなぁ、おい」

「うるさいッス」


 それを見たグルックが、嬉しそうにクリフの肩を叩く。


「相変わらず性格が悪いよね……」

「会頭、そんなとこだけは尊敬できないです」


 同じ商会のフランシスとギルも呆れ返るほど、それはもう満面の笑みでクリフに絡むグルック。


 そこで、アルフォンスがララノアに同じ質問をする。


「ララノアさんは、この近くに住んでるんですか?」

「そんな『さん』付けなんて他人行儀な。『ララ』って呼んでよ。親しい人はみんなそう呼ぶんだ」 

「えっ、ええ。分かりました……」

「じゃあ、はい。さっそくどうぞ……」


 仮に彼女に尻尾があれば、引きちぎれんばかりに振っているだろうと思われるほど、ニコニコとした表情で、愛称呼びを促すララノア。


「あっ、はい。それでは……ララ」

「はいっ、何でしょうか?」


 アルフォンスに愛称で呼ばれて頬が緩んでいるララノア。


 今なら何でも答えてくれそうだ。


 そう感じたアルフォンスは、先程と同じ質問を繰り返す。


「ララ、この近くにあなたの家はあるんですか?」  

「はい、ここからしばらく南方に進むと、ボクの住む村があるんだ」


 この近くに地図にすら載っていない村があると聞き、商売の匂いを嗅ぎつけたグルックは、身を乗り出して会話に加わる。


「おい、近くに村があるならオレたちも連れてけよ」


 だが、彼女は答えない。


「グルックさん、徹底して嫌われてるッスね」


 そのやり取りを見たクリフが、ここぞとばかりに先のグルックのセリフを言い返す。


「やかましいわ!おい、テメエ、大人をなめんなよ!コラ!」

「落ち着きなよ。何言ったってムダだよ。ここはアルフォンスくんに任せなって」

 

 今にも殴りかからんほどに激昂するグルックを、フランシスが背後から羽交い締めにして取り押さえている。


 そんな大人たちの醜いやり取りを後目に、着実にアルフォンスはララノアとの良好な関係を築いていた。


「こんな荒野に女の子ひとりを残しておけないから、もしも近くに村があるなら送って行きたいんですが……」 


 アルフォンスは、グルックたちのやり取りを耳にして、どうやらララノアの村に行きたがっているようだと理解する。

 そこで、ララノアに村に連れて行ってくれるように頼んでみる。


 もちろん、ララノアひとりをこの場においておけないというのも、アルフォンスの本音である。


 するとララノアは、目を輝かせてアルフォンスに尋ね返す。


「えっ、ボクを心配してくれてるの?」

「もちろんです」


 アルフォンスが心からそうだと肯定する。


「カッコよくて優しい……。すごいよ!やっぱり君はボクの運命の人だ!」

  

 ララノアは、アルフォンスが気遣ってくれた言葉に感動して、思わず少年の手を取ろうと歩み寄る。

 

 だが……。


「そこまでニャ。発情期のメスの匂いがプンプンするニャ」

「何だと!?」

「アルにお触りは禁止ニャ」 


 ララノアとアルフォンスの間に割り込んだチェシャがそう言って邪魔をする。

 見れば、アリスはアルフォンスの腰にしがみついている。


 ふたりからは、決してアルフォンスは渡さないとの強い意志が感じられる。


 そして――――。


「ララノアさん、少しだけお話しませんか?」

「なあっ!?いつの間に?」


 刹那の間にララノアの背後に回り込んでいたキャロルが、ララノアの肩をぐっと掴んで放さない。


「どっ、どこへ行く?ちょっ、まっ、待て。待てよ。待って下さい。お願い、お願いだからぁぁぁぁぁ!」


 微笑んではいるが決して目は笑っていないキャロルが、ララノアを馬車の影に連れていく。

 抵抗をしようとするが、拙いなりに身体強化の魔術を使っているキャロルの拘束からは逃れられない。


 こんなところで日頃の訓練の成果が発揮されていた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 既に涙目のララノアが、アルフォンスたちの視界から消えていく。


「兄貴……、女って怖いよな……」

「うん……」


 それを見送ったアルフォンスは、スパーダの率直な感想に呆然とうなずくことしかできなかった。



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