第109話 粗雑
その後、気持ちが落ち着いたキャロルは、自分のとっさの行動に顔を真っ赤にして謝るも、アルフォンスが優しい言葉を返すことで、キャロルの顔をさらに赤くするという、天然のタラシっぷりを発揮する。
これを見たチェシャが、ふたりの間に割り込んで甘い時間の邪魔をしても、誰も文句を言う者はいまい。
「はいは~い、そこまでニャ!いいかげんにするニャ。アルはさっさとアタシにも何かよこすニャン」
他の3人が武器を貰ったのだから、自分にも何かあるはずだと思うチェシャ。
ニコニコと笑いながら、片手をアルフォンスに出してホレホレと催促する。
その様子を見て、チェシャの遠慮をしない性格、悪く言えば図々しい性格をスパーダはある意味スゴいと感じる。
「チェシャ姉なら、どんな無礼なことをしても納得してしまうね……」
「そうだね、僕もだんだんと驚かなくなってきた」
スパーダの呟きに、アルフォンスが苦笑いして答える。
「それじゃ、チェシャさんにはこれ」
「何ニャ?コレ?」
「【拳鍔(ナックルダスター)】といって拳にはめて使うんだ」
アルフォンスが取り出したのは、【不壊】アダマンタイト製の武器だ。
指を入れる穴が4つあり、拳の部分を覆うようにカバーすることで打撃力を向上させるものだ。
更には、わずかな魔力を通すことで、拳を覆っている部分から魔力で強化された突起が出てくるため、威力が更に倍増する仕組みになっていた。
「お~、何かカッコいいニャ!これもアルが作ったのかニャ?」
「いや、それは僕の鍛冶の師が作ってくれたんだけど、僕は拳だけで戦うことが少なくなったんで……」
実際、アルフォンスは硬気功を使いこなすようになったために、素手で闘うときはナックルダスダーは必要としなくなっている。
これは、いわばアルフォンスが拳闘術を修めるまでの繋ぎとして作られたものだった。
「ニャンだ、アルのおさがりか~」
チェシャは、アルフォンスがよこした武器の価値を知らないばかりに、そんな軽口を叩く。
だが、その性能はアルフォンスが作るものよりも遥かに高性能であった。
何しろ、かの【聖鍛】バザルトの作品である。
【不懐・極】【自己修復・極】【破壊・極】【回避能力・極】【速度向上・極】【動体視力強化・極】となんと6つもの印が施されているチート武器であったりする。
万が一、売り払うとすれば天文学的な金額となる一品。
だが、その事実をチェシャ自身が知ることはない。
チェシャが両手にはめたナックルダスダーを、ガチャガチャと叩き合わせながら尋ねる。
「それで、アルはアタシにも手取り足取り教えてくれるのかニャ?」
「チェシャさんには、細かく教えても覚えてくれるとは思えないので、ひたすら実戦で勘を養ってもらうしかないかなと」
「なかなか分かってるニャ。難しいことを言われても無駄ニャ。さあ、やるニャ!」
チェシャが楽しそうに告げるが、アルフォンスはその場から動こうとしない。
「どうしたニャ?」
すると、アルフォンスは不敵な笑顔を浮かべるといきなり拍手をする。
「今日はスペシャルゲストをお呼びしております!ぱちぱちぱち~。子狼さんっ、ですっ!!」
チェシャは、突然の言葉に理解が出来なかったが、背中から感じる強烈なプレッシャーでその意味をようやく理解する。
彼女が慌てて振り返ると、烏羽のような毛並みの狼がゆっくりと近づいてくるところであった。
「ニャ~~~!もっ、もしかして、アタシはこの犬ころと闘うのかニャ?」
この先の運命が容易に想像できる相手に、チェシャは震えが止まらない。
「大丈夫、死なない程度に手加減はしてもらうから。ねっ?」
「ガウ!」
そんなやり取りを聞いたチェシャは、口から魂が出そうなほど呆けている。
「アルフォンスさま……」
「兄貴は鬼だ」
「お兄ちゃん、えがおがこわい」
「でも、チェシャ姉は、ちょっと自由奔放すぎだったから……」
「アルフォンスじゃなくて、鬼フォンスだ……」
「狼ちゃんがんばれ~」
アルフォンスの暗い笑みを見た一同は、思わず寒気を覚える。
「兄貴もチェシャ姉のワガママに思うところがあったんだなぁ……」
「すっごくその気持ち分かる」
「がんばれぇ~」
3人がこそこそと話をするうちに、とっとと逃げ出したチェシャが、あっという間に子狼に追い付かれる。
「ニャーーーーーー!出たあーーーーーー!」
こうしてチェシャの悲鳴をバックに、アルフォンスは残った三人に指導を行うのであった。
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