第三部 仲間

第101話 道程

 今日もまた【ウルペス商会】の商隊キャラバンが荒野を進んでいく。



 元奴隷の少年少女を同行人に加えた商隊は、少年少女たちを以前に住んでいた村まで送り届けるべく、やや進路を修正しつつも着実に前へ前へと進んでいた。


 実際のところ、ハイオークキングたちに襲われた際に、進路が来たときの道から大きくそれていたこともあり、さほど時間をロスすることもなく、少年少女たちの村に辿り着けるのではとの見込みであった。


 それでも、4人も一気に増えた関係で、食料事情が心配になってきたため、今日はアルフォンスが子狼とともに、獲物を探しに出ることになったのであった。


「じゃあ、行ってきます」

「ガウッ」


 そう告げて、駆け足で馬車から離れていくアルフォンス。

 子狼も遅れずについて行く。



 その様子を見ていた少年少女たちは、感嘆の声を漏らす。


「いやぁ、あっという間に見えなくなった。さすが兄貴だな!」

「本当に、アルフォンスさまはすごいです」

「ムフフフ……。アルをつがいにすれば一生、リッチでゴージャスな生活が送れるニャン」

「ダメだよ〜。アル兄のおよめさんになるのは、アリスだもんね〜」

「ニャンだと〜?それは許さんニャ〜!」

「い〜や〜!キャハハ〜」

「待〜つ〜ニャ〜!」

「やだよ〜」

「ふたりとも、そんなに暴れては皆さんに迷惑でしょ?」


 そんな風に楽しそうに会話をしているのは、元奴隷であった【スパーダ】【キャロル】【チェシャ】【アリス】の4人であった。

 

 奴隷商人の馬車に乗っていた頃とは、その表情も会話もまるで違う。

 今は、未来への希望と日々の楽しさに満ち溢れていた。

 

 元奴隷の少年少女たちは、隊商の主であるグルックの計らいで、お客さんとしての待遇を受けていた。




 当初は下働きでも何でもすると申し出た4人であったが、グルックはそれを却下して、客扱いとすることを決めたのだった。


「バ〜カ、何の技術も持たねえお前らに誰が頼むか。お前らの村に送り届けたら、村から搾り取ってやるから構うんじゃねえよ」

 

 当時は、ぶっきらぼうにそう告げたグルック。


 少年少女は、その言葉にどう反応すれば良いのか困っていると、そこにアルフォンスが助け舟を出した。


「僕も最近知ったんだけど、グルックさんはわざと偽悪的に振る舞ってるみたいだから、これは『ちゃんと村に送り届けるから安心していろ』って意味と捉えてもいいみたいだよ」

「なぁっ!?」


 わざわざ本人の目の前でそう茶々を入れる。

 してやったりといった顔で笑いながら。


 グルックが悪い人間ではないと知ってから、アルフォンスは積極的に絡んでいく方針に切り替えたようだった。


「テメエ、余計なことを言うな!」 

「イテッ」


 本心を代弁されて慌てるグルックは、とっさにアルフォンスの頭を平手で殴る。

 頭を叩かれたアルフォンスは、頭を押さえながら面白そうに笑う。


 そんなやり取りに、少年少女たちもつられて笑みが溢れ、意図せずに気持ちが軽くなる。


 こうして、かつて奴隷として地獄を垣間見た少年少女たちは、優しい人たちに助けられた幸運を実感する。




「おい、あの狐、アルフォンス少年を叩いたぞ」 

「ある意味、アイツも図太いよな」

「アルさんが怒ったら肉片すら残らないだろうに、そんな人を叩けるなんて驚きッス」

「まぁ、アル少年はそんなことでは怒らない」

「あれ、アル少年は意外と喜んでる?」



 一方で、グルックの所業を目を丸くして見つめていた【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の面々は、確実に変わりつつあるアルフォンスとグルックの関係性を感じるのであった。




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