第102話 馬車

「それにしても、この馬車はすげえなぁ」

「アルフォンスさまは何でも出来るんですね」

「え〜っと、剣術と魔術と拳闘、それで鍛冶もできるニャン」

「あと、ケガもなおしてくれたよ」

「そうね、アルフォンスさまは素晴らしい人です」

「キャロ姉、兄貴のこと好きすぎじゃね?」

「そそそそそそ、そんなことないよ。たっ……だだね、すごく素晴らしい人だなっては……思うよ」

「7回も『そ』って言ってたニャ」

「キャロ姉はどうようしすぎ〜」


 アルフォンスの話から、キャロルをからかう流れになってしまう元奴隷たち。


 客人待遇の元奴隷たち4人は、馬車のでそんな穏やかな時間を過ごすのであった。



 彼らが乗っている馬車は、当初よりも2倍の大きさになっていた。


 荷馬車が手狭になったなら、二階建てにすればいいじゃないとばかりにアルフォンスが手を加えた結果、また馬車が進化してしまったのであった。


 縦に大きくなったことで悪くなったバランスを調整するために【平衡化】の印を、重量が増えた分を補うために【軽量化】の印を施す。

 さらには、馬車特有の揺れを軽減するために、【静謐化】の印まで加える始末。


 その結果、悪路走破性と高い居住性を兼ね備えた馬車が完成していまったのであった。


「アル、あんまり馬車が軽いからブライアンが驚いて振り返っていたよ」


 ギルが馬の気持ちを代弁するかのように、大喜びでアルフォンスに礼をしたくらいだ。




 なんということでしょう。

 無骨な幌馬車が、重厚感あふれる二階建ての馬車に早変わりです。



 前回は豊富な素材を使ったので、今回のコンセプトは印を付与しまくる方向で改良したらしい。


 魔改造されたと思われていた馬車には、まだまだ改良の余地が残されていたようである。


 これには、さすがのグルックも二の句が継げなかった。


「いやぁ、こりゃあ王侯貴族すら持っていない馬車になったッスねぇ」


 とは、貴族の三男である【クリフ】の言であった。


「走る要塞が進化した」

「走る要塞を改良した」


 デュークとイーサンがそう評価する。



 ただでさえ走る要塞と呼ばれるほどの馬車であったが、居住性までも兼ね備えてしまった今となっては、まさに『走る城』と呼ばれても遜色ないほどの馬車になったのだった。


「きっ……金貨100枚出す!」


 材料費は別で、手間賃だけでいいとの約束で魔改造したアルフォンスであったが、出来上がった馬車を見てグルックはそう評価した。


「だっ、だが……頼む、分割にしてくれ……」 


 懇願するグルック。


「いや、好きでやったことですから、別にいいですよ」

「それは商人としての矜持が許さねえ」

「でも、お金は無いんですよね」 

「それとこれは別だ。材料費は別で、こんだけの仕事をしてもらった以上、その技術に正当な対価を払うのは当然だ」 

「いやぁ……ある時払いでいいですからね……」


 好き勝手にやった挙げ句、金までもらえるとあつて気が引けるアルフォンスであった。



 こうして、隊商は足取りも軽く、王都に向かって走るのであった。


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