第92話 追想

 そのミスリル鉱山は、王国の僻地で発見された。

 本来であれば国に報告して、然るべき調査の後に採掘が行われるはずだった。


 この調査で、鉱山の危険性や採掘の計画が決められるのだが、それには多くの時間が必要となる。


 これは、安全性を担保するために不可欠な時間であったが、この鉱山を領地内に持つ【シュペー伯爵】はそれを良しとしなかった。


「危険ならば、亜人の奴隷にやらせればいいだろう。人ではないのだから、死んでも構うまい」


 そんな、血も涙もない発言により、伯爵領内にある数カ所もの亜人の村が何者かに襲われ、子供たちが違法奴隷として連れ去られたのであった。


 そして今日も、奴隷に堕ちた少年少女たちは、劣悪な環境下で採掘に臨むのであった。


 だが、その日はいつもと様子が違った。

 朝早くから採掘をしていた奴隷数人が、一斉に急な体調不良を訴えたのだった。


 頭痛や耳鳴り、嘔吐といった症状が何名もの奴隷たちが現れたのだった。

 これは空気孔もないような狭い穴に押し込められたことによる、典型的なガス中毒の症状なのだが、科学的知識のない奴隷の主や監督官たちには分からない。


「テメエら、サボってやがるんじゃねえ!」


 倒れて意識を失っている者へ、監督官の鞭が容赦なく打ち据えられる。

 だが、死にかけている少年少女たちにとっては、動けと言われても身体が痺れてどうすることもできない。

 普段とは違う症状にいち早く気づいたグルックは、これは尋常ではないことだと理解する。


「ゴーシュさま、何かマズイです。これは……」

「何だと?」 

「ですから……げはぁ!」


 危険性を訴えようとしたグルックの腹に、監督官の蹴りが入る。


「勘違いすんなよ、小僧。誰もお前に発言を許してねぇ」

「でも……ぐうっ」

「今までは使えそうな駒だから、多少耳を傾けていただけだ」


 倒れたグルックに、監督官が何度も何度も鞭を打ち付ける。

 そのあまりの怒気に、他の奴隷たちは自身に累が及ぶことを恐れて、言葉をかけることすらできないと思われた――が、そんな中でひとり、白い毛並の狐獣人だけが動いた。


 未だに痛みの残る頭、吐き気のする身体を推してフラフラと、グルックに歩み寄ると、鞭に打たれるグルックに覆い被さる。


「んだぁ!?この野郎、邪魔をする気か!どけぇ!」

「フランシス!どけよ!お前までやられちまうだろうが!」

「……いっ、嫌だ!こ……今度は、僕の番だ……」


 監督官の命令に逆らっているため、隷属の首輪からの強制力も働いているであろうフランシスであったが、彼は歯を食いしばって耐える。


「ええい!こうなりゃ、テメエは死ねええええ!」


 ヤケを起こした監督官が、フランシスを殺すつもりで鞭を振り上げる。


「早く、早く逃げろ!フランシス!殺されちまうぞ!」

「かっ……構わない!いつもいつも、僕を助けてくれた君の身代りになるなら……本望だ!!」


 歯を食いしばり、首輪の強制力と戦うフランシスの姿に、グルックは涙を浮かべる。


(畜生、カッコつけて助けてたつもりが、これかよ。神様、いるのかいないのか分からないが、もしもいるのなら、俺なんてどうなってもいい。せめてコイツだけは助けてやってくれぇ!)


 必死に信じてもいない神に祈るグルック。

 もはや、最後の望みはそれしかなかった。


「くたばれやぁぁぁぁぁぁぁ!」 


 監督官が、勢いよく鞭を振り上げる。。

 

 ――カシュッ。


 乾いた音と同時に、鞭が振り下ろされたが、フランシスにはいつまでたっても痛みがやって来ない。


 手応えのなさに、監督官が自分の手の鞭を見れば、手元の部分から先が切られて無くなっていた。


「へっ?」


 呆気にとられる監督官の耳に、手を叩く音が聞こえてくる。


「いやぁ、すばらしい。来てみれば、こんなに感動的な光景が見られるなんて。もう、おばちゃん涙が止まらないわ」

「あらあらまあまあ、それは良かったわねえ」

「いや、そうじゃないでしょ。このダブル天然が!あたしたちは、さっさとこのクズを処理するんでしょうが」


 そこにいたのは3人の女性がこちらに向かって歩いてくるところだった。


 ひとりは、顔まで覆う黒装束に身を包んだ年齢不詳の女。

 もうひとりは、真っ白なローブを着た金髪碧眼の中年の女性。

 最後のひとりは、真っ黒なローブを頭から被っている幼女。


 服装も年齢もバラバラだが、歴戦の勇士のみが纏う絶対強者の雰囲気を醸し出していた。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 若かりし日のじじい共と言ったな、あれは嘘だ。



 まさかの若かりし日の女性陣参戦。

【隠聖】【癒聖】【聖魔】の3人だす。


 ヘ ︵フ

( ・ω・)

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