第81話 窮鼠
アルフォンスとグルックの急造コンビによる、奴隷商人への追い込みは徹底していた。
まさにぐうの音も出ないとはこのこと。
自らが貴族に騙されていたと知り、その末路に恐怖した奴隷商人が泣きわめく中、ふたりの矛先は奴隷商人の護衛であるAランクパーティ【金剛の荒鷲】の生き残りへと向く。
「護衛の責任者は誰だ?」
「名誉の戦死を遂げた。今はオレがまとめている」
グルックの問いかけに、顔を強ばらせた巨躯の男が進み出る。
「奴隷商人と知って力を貸すこともまた大罪だ。理解してるよな?」
「いや、全ては戦死したリーダーの決めたこと。残った我々には一切関係ない」
どうやら、死者にすべての責任を負わせて、知らぬ存ぜぬで通すつもりのようだ。
「ほう、これだけの人数がいて知らないと?」
「そのとおり。ずっと秘密にされていたのでな。我々も驚いている」
グルックの問いかけに、男はいっこうに動じない。
完全に手詰まりかと【
だが、そうではなかった。
「だそうだが、小僧この場合はどうなる」
「有罪。大法廷最高裁において『商人たちよりも護衛の方が多い状況で、積荷を隠し通すことは不可能』との判例がある。今回も同様のケースと認められる」
「ケケケ、だそうだぜ」
「そもそも『冒険者の遵守すべき法律』つまり『冒険者法』で護衛対象者の積荷を確認する義務がある。『これを怠り、大罪が発覚した場合、正犯と同様に処する』とある。お前らは、そこの下衆と同様に『死刑又は無期限の犯罪奴隷落ち』だ」
アルフォンスがそう断言すると、代表の男ばかりでなく、その後ろで推移を見守っていた生き残りのメンバーも青ざめる。
「ギャハハ。おい、どんな言い訳してもムリだったみてえだな!必死に考えたんだろうけど、ムダだったなあ!」
「お前らが奴隷たちに与えた苦痛の報いを受けるときが来たぞ」
そう話すグルックとアルフォンス。
代表の男は反論すら諦めたようで、眉間にしわを寄せてうなるばかりであった。
そのとき、アルフォンスたちの背後から悲鳴がかった声が飛ぶ。
「兄ちゃん、右だぁぁぁ!」
その声にすかさず反応したアルフォンスが、言われた方向を見れば、死角にいた生き残りのメンバーが、何かを投げるために振りかぶるところであった。
「【
アルフォンスは詠唱を破棄して、最速の雷鳴魔術を放つ。
迸る紫電が、生き残りのメンバーが投げつけようとしていた『何か』ごとその腕を穿つ。
「ぎゃあ!」
「腕、腕がぁ!!」
「ぐおおおお!」
「ひいいい!」
紫電を受けた者たちは、その痛みに地面を転がって泣き叫ぶ。
アルフォンスたちの背後から聞こえた声は、明らかに奴隷商人の護衛たちが動き出す前に聞こえた。
(これは魔眼の能力かな?)
警告してくれた声が、同年代くらいの少年のそれであったことから、先ほど治療したばかりの元奴隷の少年が助けてくれたのだと思い至る。
「ありがとう」
アルフォンスが振り返り、そう感謝の言葉を伝えると、青い髪の少年が嬉しそうに頷く。
「このままじゃ、もう終わりだぁ!殺れ!皆殺しだぁぁぁぁぁ!」
泣き喚いていた奴隷商人が、突然金切り声でそう叫ぶと、【金剛の荒鷲】の生き残りがアルフォンスたちに殺到する。
「ひいいい、何とかしろぉ!」
先ほどまでの強気な態度が嘘のように慌てふためくグルックを後目に、戦闘態勢を整えたのは【
「その程度でどうにかなると思ったか」
「窮鼠ってヤツか?」
「アルさんもッスけど、ガンガン追い詰めたっッスからね」
「こうなるのは予想済み」
「こうなるのは想定内」
普通に考えれば、自分たちが手も足も出なかったハイオークを一掃した彼らに歯向かうのは愚の骨頂。
だが、追い詰められた奴隷商人やその護衛たちには、もはや正常な判断を下すだけの理性は残っていなかった。
目を血走らせて殺到する奴隷商人の護衛たち。
ハイオークの躯が転がる戦場で、再び戦闘が行われるかと思えた矢先、アルフォンスが【
「僕が行きます。任せて下さい」
【
「少年はずっと怒っていたしな……」
「もうご愁傷さまとしか言いようがねえな」
「いやぁ、普段怒らない人が怒ると、ここまでおっかないって典型ッスね」
「まあ、当然」
「まあ、残当」
アルフォンスが対峙する理由を想像したアトモスたちは、その怒りのほどを想像して身震いする。
そんなこととはつゆ知らず【金剛の荒鷲】の生き残りはアルフォンスに襲いかかる。
腕を吹き飛ばされた連中も、残った腕に武器を持ち必死の形相だ。
アルフォンスたちを生かしておけば、自分たちには先はないのだから。
彼らはここが生きるか死ぬかの分水嶺だと判断したのだった。
「アルフォンスさま危険です」
「お兄ちゃん、あぶないよぉ!」
「少年、逃げるニャン!」
「兄ちゃん、逃げろおおおお!」
元奴隷たちは、襲い来る護衛たち相手に、たったひとりで立ち向かうアルフォンスに危険を呼びかける。
自分たちを救ってくれた恩人が、危険な目に遭いそうになっているのだ。
その心配は当然のことだろう。
その叫びを耳にしたデュークは、少女たちに安心するようにと告げる。
「問題ないから見ていろ。圧倒的だから」
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