第82話 加減
元奴隷の少年少女たちは、目の前で繰り広げられている光景に驚きを隠せない。
「なっ、何だ?このガキ」
「当たらねえ」
「囲め!囲んじまえ!」
「バカ!そっちじゃねえ!」
怪我をしている者もいるとはいえ、仮にもAランクパーティのメンバー10名に対して、たったひとりで立ち向かう少年。
戦いが始まって数分、未だに誰も少年の影すら踏むことができずにいた。
「ぐわぁ!」
「テメエ、何しやがる!」
「こっ、コイツが逃げるから」
「避けるなぁ、ガキがぁぁぁぁぁぁ!」
すべての攻撃を紙一重でかわしつつ、ときには相手の動きをかき乱し、ときには同士討ちを誘発する。
少年にあっては未だに剣すら抜いていない。
息も絶え絶えな相手とは裏腹に、少年はその端正な顔には笑みを浮かべながら、まるで舞うように【金剛の荒鷲】の生き残りを翻弄し続けている。
「まさに格が違うな」
「ガハハハ、あれをやられると心が折れるんだよなぁ」
「さすがに、武器くらいは抜かせてるッスよ、ウチらは……」
「でも、アル少年は何でわざわざ心を折りに行ってるんだ?」
「何かやる気みたい。ずっと詠唱してる」
「何?」
「アル少年にしてはかなり長い詠唱」
「おいおい、例の雷鳴魔術が来るのか?」
「いや、そうじゃないようだ。精神……に関与する?」
「しっかりするッス、解説者」
「誰が解説者だ」
彼らがアルフォンスの動きに気を取られている隙をついて、護衛たちの一部が元奴隷の少年少女たちに忍び寄る。
「お前ら、大人しく……ぶふっ!」
元奴隷を人質にしようとしての行動であったが、事前に予想していた【
デュークが、もはや冒険者とも呼べない下劣な行為の相手に失望しているわずかな間に、その横から小さな影が飛び出していく。
「ぐはぁ」
「がっ」
次々と、小さな影に踏み潰されていく襲撃者たち。
次々と尻を突き出す形で頭から地面に刺さるその姿は、変なオブジェのようだ。
その気味の悪い光景を作り出した小さな影は、アリスに妙に懐いている子狼だった。
その小さな身体では、襲撃者たちを地面に突き刺すほどの重さは得られないはずなので、おそらくは何らかの魔力を用いた攻撃なのだろうと思われた。
「ああっ、ガオちゃん。たすけてくれたんだね、ありがとう」
自分たちに襲いかかってきた者を、文字どおり瞬殺した子狼に、アリスが駆け寄る。
子狼は、喉を鳴らしながらアリスに撫でられ続けるのであった。
役割りを奪われたデュークは、トボトボと仲間たちのもとに戻るとポツリと告げる。
「デュークは、普段から手加減されてたらしい……」
普段から子狼に踏み台代わりにされていたデュークは、地面に突き刺さった襲撃者たちの惨状を見て、しみじみと自分の幸運を噛みしめるのであった。
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