第78話 条文
スパーダが勝手に中二病認定をされているところに、乱入者がやってくる。
先程から何やら喚き散らしていた奴隷商人であった。
生き残った護衛を引き連れて、口角泡を飛ばすながら、自分の主張を一方的に捲し立てる。
「コレは俺の奴隷だぞ!それをキサマが勝手なことをしおって。謝罪しろ!賠償しろおおおお!」
その嵐のような主張に、キャロルたち元奴隷は思わず身をすくませる。
だが、アルフォンスはそれには一切動じずに、元奴隷たちに優しい笑顔を向けると力強く断言する。
「大丈夫、きっと守るからね」
「アルフォンスさま……」
「アル、なんか頼れる男ニャン」
「お兄ちゃん、かっこいい」
ここに来て、アルフォンスの人たらしの才能が大爆発である。
元奴隷たちには、もはや何の不安もない。
「聞いているのか小僧!おい、そこの狐!お前がコイツの雇い主か?コイツのやらかしたことはただではすまんぞ!」
「ああっ?誰に口をきいてやがる、この違法奴隷商人風情が!」
怒鳴りつける奴隷商人に、同じように怒鳴り返すグルック。
ガラの悪い商人どうしの罵り合いが始まった。
そこにアルフォンスが割って入る。
「おい、クソ奴隷商人!さっきから黙って聞いてれば、勝手なことばかり抜かしやがって、テメエには恥も外聞もねえのか?」
「ああ!?」
自分のことを言われたと気づいた奴隷商人がアルフォンスを睨みつける――と。
怒りのあまり口調も変わっている。
「ひいっ!!」
そこにはまさに殺気をみなぎらせ、憤怒の形相で奴隷商人を睨みつけるアルフォンスがいた。
人となりを知っているグルックですら、思わず後退りするほどの迫力。
「少年が怒る姿を初めて見た」
「馬鹿な商人だ。この中で最も怒らせちゃならねえヤツを怒らせちまった」
「下手なヤクザ者よりもドスが効いてるッスねえ」
「アル少年、キレた」
「アル少年、大激怒」
【
だが、そこは数々の修羅場をくぐり抜けてきた奴隷商人。
のどから心臓が飛び出しそうなほど激しい鼓動の中でも、かろうじて言葉を発する。
「おっ、オマエが何を言おうと、これは正式な契約によるものだ。こっちが病の特効薬と引き換えにその身を買い取ったのだからな」
「嘘よ!特効薬なんて無いって言ったじゃない!」
そこにキャロルが異を唱える。
「おお、そんなこと言ったかな?」
「言った!有りもしない特効薬の代償に奴隷に墜ちたって!」
「おやおや、長い奴隷生活で記憶力も低下したのかな?」
いくら糾弾しても、恥という言葉を知らない奴隷商人には響かない。
キャロルが己の無力さに諦めかけたとき、アルフォンスが発言する。
「そもそも、その契約自体が無効だって話だ」
「何だとこのガキが!商人の何たるかも知らないキサマが戯言を抜かすな!」
「知っててあえて無視してるのか?それとも単なる無知か?ああ、無知だからこんなハイリスクなことをやってるんだろうな」
「何だと?」
「王国には『奴隷の処遇と契約に関する法律』……通称『奴隷法』第11条に『未成年の奴隷はこれを認めず』との規定があるんだよ」
「何っ?」
「商人の基本だ。知らねえとは言わせねえぞ。グルックさん、そうですよね」
アルフォンスが商人を睨みつけたまま、グルックにそう尋ねる。
「あっ、ああ。フランシス!」
「チョット待ってくれ。ああ……あった。これはすごいね。条文まで一緒だ」
「なっ何だと!ぐぐぐぐぐぐ……」
グルックの呼びかけに従ってフランシスが、馬車に備え付けられていた分厚い本を開く。
旅をしながら商いをする彼らにとって、その身を守ってくれるのは法律のみ。
故にグルックたちは、高い金を払って王国法が全て網羅されたその本を購入しては、わざわざ持ち歩いていたのだ。
羊皮紙を束ねて作られたその本は、何十冊にものぼる。
それをめくって確認したフランシスが、アルフォンスの記憶の確かさに舌を巻く。
「キャロルさん、お年は?」
「じゅ……11歳です」
「チェシャさんは?」
「12歳ニャン」
「アリスちゃんは?」
「8さい!」
「倒れている少年も似たような年代だろう。どうした?何か反論はあるか?」
怒れるアルフォンスが、確実に奴隷商人を追い詰めていく。
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