第77話 魔眼

「『あっ』って言ったニャン……」

「アルフォンスさま、今……」

「お兄ちゃん、なんかおどろいてたよ?」


 アルフォンスが小さくこぼした声に、チェシャたち元奴隷の少女が反応する。

 狐商会や【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の面々も、その理由を知りたかったので、その様子を固唾を呑んで見守っている。


 もはや、奴隷商人のわめき声など誰の耳にも入っていない。


「……だっ、大丈夫ですよ。ほら……元通りになりました」


 己の失態に一瞬で我に返ったアルフォンス。

 チェシャたちが見る限り、見るも痛ましいほどにボロボロだったスパーダの身体は完全に癒えているようだ。


「じゃあ、どうしてあんな声を……」


 キャロルの心配そうな顔を見て、アルフォンスは誤魔化すことは出来ないと諦める。


「え〜とですね、ちょっと魔力の調整を誤りまして……」

「それが何か問題でも?」

「魔力を過剰に込めると、身体がどんな反応を起こすか分からないので、本来は厳しく諌められてるんです」

「というと、魔力を込めすぎちゃったんですね」

「……はい。僕の場合は他の人よりも魔力が大きいものですから、ちょっと進化というか変質というか……」


 歯切れの悪いアルフォンスに、チェシャがバッサリと聞く。


「それはスパーダの身体に悪いことニャのか?」

「いえ、それは絶対にありません。治癒魔術で身体に悪影響が出ることはあってはならないことなので……。ただ……」

「『ただ』?」

「その拍子に彼の右目が【魔眼】になってしまいまして……」


 そう言ったアルフォンスの言葉に、真っ先に食いついたのは、魔術師のイーサンであった。


「魔眼だと!?」

「どうしたイーサン?」

「うっ、羨ましい……」

「えっ?」

「どういうことッスか?」


 パーティーメンバーから詰め寄られるイーサン。

 その声に驚いたキャロルたちもイーサンの次の言葉を待つ。


「【魔眼】とはその名の通り、魔力によって変質した瞳のこと。有名なのは【バジリスク】の【死の瞳】や、【メドゥーサ】の【石化の瞳】か……」

「そう言えば聞いたことがあるッス。何らかの特殊能力を持つ瞳のことッスよね?」

「そのとおり、アル少年。その魔眼の能力は?」

「それは分かりません。彼が目を覚ましてからになるかと……」 

「くうう。羨ましい。なぁ、イーサンも目を潰したら魔眼にしてもらえるのか?」

「絶対にダメです。やりません。これは【人体改造】ってヤツで死んでも手を出すなってばあちゃんに言われていたので……」

「【癒聖ゆせい】様か……。それじゃ、仕方ないか」  

「ええ……」


 そんなやり取りを聞いて、チェシャも結論を出す。


「そんなら問題ないニャン」

「えっチェシャ姉、勝手に決めていいの?」

「男の子は人と違うって言われると喜ぶって孤児院長かあさまに聞いたニャン。確か【中二病】……」

「おい、その病はダメだ……」


 グルックは、知らないうちに勝手に中二病認定された少年に、軽く同情心を抱くのであった。

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