第79話 罰則

 アルフォンスの法的根拠に基づいた指摘に、奴隷商人は追い詰められていく。


「だっ、だがこれは正当な取り引きで……」 

「その前提自体が間違ってるってことに気づかないのか?ばかなのか?それとも、わざと言ってるのか?」


 アルフォンスは、あえて荒々しい言葉で追及している。


 追い込むときには、優しさの欠片も見せずに徹底して。

 それが【聖商せいしょう】ミツクニの教えであった。


「このガキが!多少、法律をかじったくらいでいい気になるなよ!世の中には、キサマの知らない取り引きがあるんだ!何も知らずに偉そうなことを抜かすな!」


 言葉に詰まった奴隷商人が逆ギレすると、今度はグルックが追い詰めていく。


「このクソ野郎、奴隷商人が商売を語るな!」

「ああっ!?」

「まともな商売では身を立てられないから、ボクちゃんは違法な商売に手を出しましたってか?」

「テメエ、言わせておけば……」

「まともな商人なら、違法奴隷を商売にするなんてリスキーなことは出来ねえんだよ」

「何が言いたい?」

「小僧、違法奴隷を扱った場合の罰則は?」 


 グルックに話を振られたアルフォンスは、スラスラと答える。


「死刑又は無期限の犯罪奴隷落ち」

「バッ、バカな……」


 アルフォンスの言葉に青ざめる奴隷商人。

 そこにグルックの高笑いが響き渡る。


「ハーッ、ハッハッハ!ザマァねえな、おい。そこの子供らは明らかな被害者だ。そして俺たちは一部始終を確認した証人。地獄行きが決まったな」

「そんなはずはない。あの方とて、仮にバレても穏便に済ませられると……」

「だからオレはボクちゃんって言ったんだ。大方、その重大性をろくに理解もせずに手を出したんだろ?金になるからってさ」

「バカな。バカな。バカな……」

「そこの小僧の方が、よっぽど商売を知ってたなぁ。ねぇねぇ、今どんな気持ち?偉そうに商売を語った自分が、実は一番無知だったことに気づいたのは」


 グルックが見下しながら煽りまくる。


「小僧、奴隷解放時の武力行使についても取り決めがあったよな?」

「ああ、王国法の細目には、違法奴隷を解放する際の武力行使に関しては、その罪を問わないことも明記されている」

「つまり、今からお前らをぶちのめしても問題はない訳だな?」

「問題ない」

「おっ、お前ら何を言っている」

「ええ?せっかくだからぶん殴っておこうかなと思ってよ。ついでに言えば、奴隷商人を見つけた者が、ソイツの全財産を奪い取っても罪には問われんぞ」

「【始王】の『蒼の月宣言』だ。『他者の自由を侵し、尊厳を傷つける違法な奴隷商人に人権はない。奴らは獣にも劣る存在なり。故に殺しても罪には問わず、その財産を得ても罪には問わぬ。この王国の獅子身中の虫である違法な奴隷商人を駆逐せよ』」

「そんな。そんなぁ……。これは何かの間違いだ……」


 奴隷商人はもう立っていることもできず、ヘナヘナと地面に座り込む。


「王国の禁忌に触れたお前が悪い」

「せいぜい、自分の罪を数えてろ」


 グルックとアルフォンスにそんな言葉を投げつけられた奴隷商人は、地面にうずくまると大声で泣きわめくのであった。



「思ったのだが……」

「全て言わなくても同意ッス」

「あのふたりが組んだら最強……いや、最凶だな」

「相手が憐れ」

「相手が不憫」


 その様子を見ていた【漆黒の奇蹟ミラキュラス ニグリ】の言葉が、その場の状況を雄弁に物語っていた。


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