第70話 解放
アルフォンスは、つい殴ってしまったことを反省はしているが後悔はしていない。
【
蛙のようにひっくり返って気絶している奴隷商人を一瞥すると、アルフォンスは首輪を外したばかりの少女に向き直る。
「あっ、あの……」
少女は、突然自由の身となった現状を理解できず狼狽えていた。
そこにアルフォンスは優しく言葉をかける。
「大丈夫ですか?ちょっと無理をして首輪を外したので、どこか具合が悪いところはありませんか?」
「あっ、はい……」
その言葉に我に返った少女――キャロルは、改めて自分を救ってくれた少年の姿を見る。
濡羽色の髪と瞳を持つ少年は、自分と同じくらいの年ごろだろうか。
端正な顔つきと知性を感じさせる話し方。
彼女がこれまでに出逢ってきたどんな人たちよりも、魅力的な少年であった。
その姿に一瞬で見惚れた彼女は、少年が心配そうな表情を浮かべて、自分を慮ってくれていることに気づく。
キャロルは慌てて先ほどの問いに答える。
「……あっ、すみません。助けていただいたのにお礼も満足にせずに」
「いえいえ、それより身体の方は大丈夫ですか?」
「あっ、大丈夫です。このとおり、元気です」
少年に見惚れてしまった恥ずかしさを隠すため、胸を張って必要以上に元気さをアピールした彼女。
「あっ」
すると、少年が慌てて視線を逸す。
あれ……?
キャロルは、少年の頬が赤くなっていることを不審に思い、視線の先にあった自分の姿を見てみると……。
「きゃあああああ!」
そこには、ハイオークの爪で切り裂かれて用をなしていない服の切れ端と、ほぼ半裸状態の自分の姿があった。
両手で身体を抑えてうずくまるキャロル。
その頬は、林檎よりも更に赤みがかっていた。
どうしようどうしようどうしよう……。
完全にパニックになるキャロル。
すると、フワリとキャロルの肩に柔らかな何がかけられる。
それは、キャロルの上半身がすっぽりと隠れる大きさのマントだった。
「これは……」
「僕のお古ですが、それで隠して下さい。服もいくつかはあるんですが、イマはちょっと見つからないんで……」
見れば、少年も顔を真っ赤にしている。
彼も同じように照れているのだと感じたキャロルは、どことなく気持ちが軽くなり、落ちつきを取り戻す。
「あっ、ありがとうございます……」
「いえ……」
ほんの少しだけ見つめ合ったふたりだったが、すぐに双方とも目を逸らす。
互いを意識しているのが、傍目からでもよく分かる。
そんな、どことなくほっこりとするふたりであった。
そんなふたりのやり取りを見ていたのは、アトモスを除く【
子狼がノリノリで参戦した上に、イーサンの結界でハイオークから完全に隔離された今、手持ち無沙汰になったのを良いことに、アルフォンスとキャロルのどこか初々しいやり取りを見守っていたのであった。
「んっ、んんっ!」
このままでは、話が進まないとデュークがわざと咳をする。
その音で我に返ったふたり。
とっさに必要以上に離れる姿は、いたずらを見つかった子供のようであった。
「いいッスねえ。若いって……」
「俺も昔はそんなことがあったなぁ……」
「バレットさんも!?」
「何だよ、その意外そうな顔は……」
「いや、まぁ、なんッスかね……」
そんなやり取りをするクリフとバレット。
すると、そんなふたりに割り込んでデューク
がやってくる。
「アル少年、隷属の首輪はこの子たちの分も取れるか?」
連れてきたのは先ほど助けたばかりの幼い少女――アリスであった。
「だっ、大丈夫です!すみません、奴隷の人たちを集めてもらえませんか?すぐにやっちゃいましょう!」
何となく恥ずかしいところを見られたような気がするアルフォンスは、ごまかすために早口になる。
クリフとバレットは、生暖かい目でアルフォンスを見つめると、隠しきれない笑いを口元に浮かべると倒れているチェシャと、スパーダを連れに行くのであった。
「何ですか皆さん!その笑いは!」
アルフォンスの照れ隠しの大声が、戦場に響き渡るのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
照れ隠しで動きや声が大きくなるふたり。
似た者同士……。
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