第49話 覚悟
「少年、狼がまだついてくるぞ」
「ああ、そうですね。餌付けしちゃったかな?」
馬車の結界ギリギリの位置に隠れるようにしてついてくるのは、先日以来度々見かけるようになった子狼であった。
「少年は、まるで狼を鍛えているようだな」
「分かりますか?」
「うぬ。狼を追いかけ回している姿が、我々を鍛えているときと同じだからな」
訓練となると生き生きするアルフォンス。
子狼に対しても、満面の笑顔で追いかけているのだから、普段から同じように鍛えられている被害者のアトモスたちにとっては一目瞭然であった。
「あの狼は、何か考えがあって、強くなりたいって思ってるみたいですよ」
「そんなのが分かるのか?」
「ええ、よく言って聞かせたので、もう僕たちについてくる必要はないですからね。それをこうしてきてるんですから……」
「そうか……少年は、魔物に言葉が通じると思うのか?」
「少なくともあの子は理解してると思いますよ。実際、もう襲って来ないじゃないですか」
「そんなものかね」
「そんなものです」
アルフォンスはニッコリと微笑んでそう断言する。
「で、少年はそんな狼を育ててどうするつもりだ?」
「えっ?どうもしませんよ」
「いやいやいや、何か目的があったんじゃないのか?」
「そんなものはありませんよ。ウチの師父が『強くなりたいと望む者がいるのなら、別け隔てなく教えるべきだ』ってのが口癖だったものですから」
どうやら、アルフォンスの脳筋寄りの考え方は、某虎獣人によるものが大きいようだ。
「ほう、それは興味深いな」
「あとは、どれだけ強くなりたいかの意志だけだって言ってました」
「素晴らしいことだ……だが、それで培った力を悪事に使われたらどうするのだ?」
そこでアトモスは、あえて厳しい質問をする。
望む者に力を与えたあとは、どう責任を取るのかと。
するとアルフォンスは、表情を変えずに断言する。
「そうなる前に斬ります」
「…………なるほど」
これまでの言動から薄々とは感じていたが、目の前の少年は、力を持つ者の矜持というものをきちんと学んでいるのだと知る。
正しい力の使い方、そしてそうではない者への対峙の仕方を、きちんと師匠から教わってきたのだと理解するアトモス。
「我々も少年に斬られぬよう、励まねばならぬな……」
「どうしたんです?」
「いや、こちらの話だ。そろそろ行くのだろう?」
「そうですね……じゃあ、ちょっと行ってきます」
そう言って楽しそうに駆け出すアルフォンスの背を見送るアトモス。
アルフォンスから指導を受けている自分たちも子狼と同様にその本質を見られる立場である。
彼は悪しき力の使い方をしていると判断されて、少年に斬られることのないように、自身を律する必要があるのだと姿勢を正すのであった。
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