第45話 惨状
アルフォンスが先行偵察から戻ると、馬車がボロボロだった。
「あれっ?どうしました?」
「どうしたじゃねぇよ、お前……」
アルフォンスに八つ当たりをするグルックを、フランシスが後ろから羽交い締めにして引き離す。
「離せ、離せよ!」
「いいから、いいから。お前が入るとこんがらかるからさ……」
「おい、おい!はーなーせー!!」
グルックが遠ざかって行ったことから、経緯を説明をするためにクリフがやってくる。
どうやらパーティーにおける交渉担当は、彼に決まったようだ。
「お騒がせしたッス」
「いえいえ。それよりも、この様子はどうしたんですか?」
「魔物に襲撃されたンス」
「魔物?」
「そうッス。たった一匹だけだったンスけど、もう散々にやられたッス」
「ええっ!?皆さん、お怪我は?」
「そっちは大丈夫ッス。あえて言うならグルックさんが殴られたくらいッスから……」
「ああ……それは……」
日に日にグルックへの扱いが軽くなっているが、もはや誰も気にしていない。
「殴られた?襲われたんじゃないんですか?」
「ええ、オレたちへの殺意は無かったッスね」 「ホントですか?」
「もしも、オレたちを殺そうと思えば容易に殺れたはずッス。それほど力の差はあったンス」
「皆さんとですか?」
アルフォンスはクリフのその言葉が信じられなかった。
これまでの訓練を通して、現在のクリフたち冒険者の力量をよく知っているのはアルフォンスだったからだ。
その彼をして、クリフたちはかなりの強さに至ったと思っていたのに。
「あまりにも速すぎて、何も出来なかったッス。それでいて、バレットの大盾を弾き飛ばすほどの力があるンスから……」
「それはスゴイですね」
バレットは自身の技術はもとより、大盾自体の高い性能もあり、壁役としては申し分ない働きが出来る。
そんなバレットをものともしないのであれば、襲ってきたのはかなりの能力を持つ魔物であると思われた。
「それにしても、どんな魔物なんですか?」
「黒い毛並みの狼ッス。まだ子狼なのかずいぶんと小さかったッスね」
「狼ですか……ちなみに、何て魔物なんですか?」
「【ブラックドッグ】あるいは【ガルム】か……あるいは……。う〜ん、ちょっと確証がないので何とも言えないッスね」
「珍しいですね、みなさんが判断つかないなんて」
「そうなンスよ……」
どことなく歯切れの悪いクリフ。
何か思うところがあるようだ。
「う〜ん……と、すると
「へっ?」
「特に大きな被害がないなら、もうしないように釘を刺すだけでもいいですか?」
「えっ?ええ……それでいいと思います……よ」
アルフォンスの言葉に驚くクリフ。
とっさのことで、何を言われているのか理解できず、空返事をする。
するとアルフォンスは、クリフにニコリと笑いかけると、腕を伸ばし軽く身体をひねる。
準備運動だ。
「それじゃあ、僕にちょっと心当たりがあるので行ってきますね」
「えっ?ええええええええええええ!!」
そう言い残すとクリフの叫び声を背に、アルフォンスは荒野に駆け出したのだった。
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