閑話「ダンジョンに行こう」
「アル、ひと狩り行くぞ」
突然やってきて、まだ九歳になったばかりの子供にそんな無茶な誘い方をするのは、虎人族の拳闘士である。
「師父、いきなり言われても……」
「ロリババアも耳長も待ってる」
「ええっ?どこに行くの?」
その子供―――アルフォンスも心得ているが、目の前の師父と、年齢不詳の魔術師、エルフの弓師、ここに彼の祖父と剣の師匠が肩を並べる。
それがこの村の武闘派かつ最強戦力だ。
そんな武闘派の中で、三名もが動くとなれば、それはもう緊急事態だ。
森の主たちが群れてやってきたのではないかと驚くのも当然のことだろう。
「ダンジョンだ」
虎人はその口元に獰猛な笑みを浮かべてそう答える。
『ダンジョン』それは『神々の箱庭』とも呼ばれる迷宮を指す。
古来から存在しているにもかかわらず、未だ踏破されていない数百もの階層に及ぶものや、階層が存在せずに一面に渡って果てなき空間が広がっているものなど、その形状は千差万別。
また、迷宮内にはこの世界の生態系とは異なる生物も存在しており、時には迷宮から溢れた生物が群れとなって付近の村々を襲う【大氾濫】も記録されている。
迷宮はその入口からは想像できないほど、内部が広かったり、あり得ないほど深かったりするため、そこは別な次元に存在し、入口だけがこの世界に存在しているのではとも言われているが、未だに仮定の域を出ないでいる。
こうして列挙すると、迷宮とはデメリットばかりのように見えるが、実際には大きなメリットも存在する。
それが迷宮で発見される魔道具類や鉱物、生態系の異なる生物から得られる素材等である。
この世界では手に入らない物が得られるというメリットは計り知れない。
希少なものが得られるとなれば、冒険者が集まり、商人が集まり、そして人の営みが広がっていく。
場所によっては、迷宮を取り囲むようにして町が発展し、迷宮都市を形成しているところもあるほどである。
このように、多種多様な迷宮だが、ひとつだけ確かなのは、迷宮の最深部には【ダンジョンコア】と呼ばれる【魔力結晶】が存在し、これを破壊あるいは迷宮から持ち出すことで、迷宮を消滅させることができることだ。
ゆえに、迷宮が見つかった場合、その有用性と危険性を天秤にかけて、消滅させるか否かを判断することになる。
そのために必要なのが、迷宮の調査だった。
「オイゲンからも許可は取った。さっさと行くぞ」
「僕の許可は?」
「そんなのいらん。修行だ」
「え~」
効果はないと知りつつも、無駄な抵抗をするアルフォンス。
今日は、トマスとともに狩りに出かけるはずだったのにと考える。
(まぁ、狩りは狩りだけどさぁ……)
「今日はトム爺と約束があったんだけど……」
「そこは俺の修行日と交換した」
「うわっ、マジで!?師父ってこんなときばかりマメだよね」
「やかましい。さっさと行くぞ」
アルフォンスは、首の後ろをバルザックに掴まれて、子猫のようにプランプランと持ち上げられて否応なく運ばれていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます