第10話 商機
「やります!」
「おい、グルック!」
ミツクニの誘いに即答したグルックをフランシスが諌める。
まだ『お願い』の内容すら聞いていないのに即答するなど、商人としてあり得ないことだったからだ。
そのため、フランシスはグルックが憧れの人を前にして舞い上がり、正常な判断が出来なくなっていたのだと思ったのだ。
だが、グルックにはグルックなりの考えがあった。
「いいか、フランシスこれはチャンスだぞ!【災厄の竜】といえば、【災禍の狼】【災殃の鳥】と並んでゼルトザーム大森林の主だ。そのオークションともなれば天文学的数字の金が動くことになる。仲介手数料がそれの2割……いや、1割だとしても命を賭ける価値はある!」
「……おっ、おう」
「この波に乗らずに何が商人だ!そう思うだろ?」
そう持論を展開してみせたグルックの様子に、ミツクニは笑みを浮かべる。
「ホッホッホ、若いウチはそれでええ。自分の命を賭けるくらいの気構えが無ければ、金の亡者たちのアタマにはなれんよ」
「ですが……」
「そもそも、ワシも若い頃に商機があると見て、アヤツらについて行ったのじゃからな」
そうミツクニが視線を向ける先には、エルフの女性と酒を酌み交わす偉丈夫の姿があった。
「【弓聖】と【剣聖】……」
「そのせいで、【聖商】などと過大な称号までもろうてしもうたがな」
そう笑うミツクニの姿を見て、フランシスは決断をする。
「……分かりました。
「フランシスいいぞ!それでこそ男だ!」
「ホッホッホ。なかなか良いコンビじゃな。ふたりとも、決断力があり胆力もある。ええのう、ええのう」
その結論にグルックも喜んで、相棒の肩を叩いて褒めちぎる。
フランシスの言葉を受けて、ミツクニは何度もうなずくと、ようやく『お願い』の内容を説明する。
「何、お願いとはそう難しいことやない。この村の子どもをひとりな、一緒に王都まで連れて行って欲しいのじゃ」
「「へっ?」」
てっきり命がけの危険な依頼を出されると思っていたふたりは、その言葉に拍子抜けする。
それを見たミツクニは、してやったりとした表情だ。
「そうか」
すると、グルックがこれまでの流れからミツクニの意図を理解する。
「……オレたちを試しましたか?」
「ん?何故そう思ったんや?」
「おそらく、その子どもはとても大事なんでしょう。それこそ【災厄の竜】の利益を分け与えても痛くないほどに」
「ふんふん、続けてや」
「で、俺……いや、私たちにその子どもを預けるに値するかを先の会話で判断したのでは?」
「ええでええで」
「正確に【災厄の竜】の価値を知り、そこから得られる利益を計算できるか……これは商人としての能力ですね。その利益を得るために命を賭ける覚悟はあるか。未知の困難に挑む気概はあるか……それを見たということでしょうか?」
「おっ、おい、グルック。それじゃあ、俺が断ったり、お願いの内容を聞いていたら……」
「おそらくは不合格だったな。『お願い』の内容を聞いてからなんて悠長なことをしていれば、気概がないと判断されたろうな。せいぜい【聖商】様の檄を受けるところまでは許容範囲ってとこかな……」
「マジかよ……」
そんな会話を交わすふたりに、ミツクニは拍手で応える。
「いやぁ、大したもんや。そこまで相手の意図を汲めるなんてなかなか優秀じゃな。さすがに、あやつがこの行路を任せるワケじゃ」
「それでは……」
「うぬ。合格じゃよ。推察もそのとおりじゃ。王都に向かう方法は他にもいくつかあるのでな。お主たちがダメなら、違う方法を考えるとこじゃった」
グルックは、どうやら目の前のお方の眼鏡にかなったようだと安堵する。
「そんじゃ、その子を紹介しようかの?おおい、ええで」
そのミツクニの合図に、黒い髪の十歳ほどの利発そうな少年がやってくる。
「えっ?」
「まっ……まさか!」
だが、それよりもグルックたちを驚かせたのは、少年と一緒に歩み寄ってくるひとりの老人の姿だった。
総白髪に豊かな白髭。
温厚そうな風貌と、英雄たちにも負けないほどの鍛え抜かれた体躯。
表舞台から姿を隠したとは言え、未だに王国民からの信頼が厚い人物。
―――【始王】オイゲン・フォン・ノイモントその人であった。
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