第8話 宴会

 ウルペス商会とその護衛の冒険者たちは、名もなき村の人々から歓待を受けていた。

 それもそのはず、この村を訪れることができた隊商は、約一年ぶりだったのだから。


 そう考えれば、隊商内に不協和音を鳴り響かせながらとは言え、まがりなりにも名もなき村までやって来れた結果だけを見れば、アトモスたち冒険者たちが優秀なのだと分かる。


 先ほどバルザックが仕留めてきた【キングワイバーン】が隊商の面々に振る舞われる。

 これから、隊商の歓迎の宴が開かれるのだ。


 すでに酒を飲んでいるバルザックは、上機嫌で隣に座る老人に話しかけていた。


「ガッハハ、いやあ、今回はトマスの罠に助けられたぞ。尻尾を巻いて空に逃げられたら手間だったわ」

「いやいや。あの飛竜は思ったよりも賢くて、飛行能力を奪うだけで精一杯だった。バルザック様々だわい。さあ、飲め飲め」 


 そんな会話が聞こえたアトモスたちは、心の中でツッコむ。


(トマスって……【狩聖】だと?)

(マジか……)

(キングワイバーンの飛行能力を奪う罠ってなんスか?)

(でも、飛行能力を奪っただけでも、簡単にキングワイバーンは倒せない)

(さすが【拳聖】……) 

 

 そんな異次元な会話を耳にして、恐れおののいているアトモスたちに声をかけてくる者がいる。


「それで、どうだった?ここまでの道のりは?」


 そう、彼らに尋ねるのは、やはり見間違えではなかった【刹鬼】の二つ名を持つ、冒険者ギルドの前グランドマスターであるゴードンだった。


「いや……」

「どうしたよ?今の冒険者ってみんな謙虚なのか?俺たちの頃なんて、自分が倒してもいないのに大物を狩ったぞって大袈裟に騒いだものだったが」


 ゴードンのそんな言葉に、アトモスたち冒険者は愛想笑いをするだけで、答えることができずにいた。


(元グランドマスターだの【拳聖】だの【狩聖】だのの前で、自分の獲物を誇れるようなヤツがいたら、ソイツは底抜けの大バカ野郎だ)

(こんなオレたちに何を期待してるんだ?)

(得意気に獲物の名前を挙げたら、オレは絶対にそれ以上のモノを狩ったって言われるッス)

(イーサン、絶対に余計なコト言うな)

(デューク、絶対に不要なコト言うな)

 

 彼らの心の叫びは、目の前の錚々たる面々には届かない。

 そこに助け舟がやってくる。


「あらあらまあまあ。ゴードン、そんなこと言っても、貴方たちを前に獲物を自慢できる人なんてそんなにいないですよ」

「いやぁ、私が若い頃なんてバルザック相手に獲物を自慢して、何度バカにされたか……」


(((このジジイ、確信犯でやがった!)))


 バカにする為にわざと話を振ってきたのだと知り、冒険者たちの目に剣呑な雰囲気が宿る。


「そんなことばかりしてるから、老害って言われるのよ」


(((よく言ってくれた!!)))


 自分たちの気持ちを代弁してくれた目の前の老女に、アトモスたち冒険者は内心で喝采を送る。


「素晴らしいお方だ……」

「どこかでお見かけしたことはあるか?」

「でも、すごく高貴そうな方ッスよ」

「すごく壮麗」

「すごく鮮麗」


 そんなことをコソコソと話していると、老女が何かに気づいた。


「あら?怪我をしてらっしゃるの?ちょっと待っててね。―――【広域治癒(ラトゥム・サナーレ)】」


 老女がそう詠唱すると、冒険者たちの大小様々な怪我が一瞬にして完治する。


(((【聖女】様、キターーーーーー!!!)))


 この瞬間、冒険者たちの緊張は、天井に達したのであった。

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