第4話 密談

「すると、オイゲン様はアルフォンスを王立学院に入学させるおつもりで?」

「うむ」


【聖宰】マリアの問いかけに、【始王】オイゲンが答える。


「カハハッ!おもしれぇ」


 そう大笑いするのが【拳聖】バルザック。


「アンタはバカなの?そうなると、アルがいなくなっちゃうじゃない」


 それに反論するのが【聖魔】アビゲイルである。


「ボッチは、話し相手がいなくなって寂しいってか?」

「うるさい脳筋!アタシはボッチじゃなくて孤高なの」


 ふたりのじゃれ合いを他所に、祖母である【癒聖】エリザベートが自らの考えを述べる。


「でも、アルにはそろそろ同年代のお友だちも必要だと思うの」

「……それは理解する。アルにはサクラ以外に同年代の友人がいないから」


 そう肯定したのは【隠聖】ツクヨミ。


「まぁ、ワシらの技を受け継いでるんじゃ、どこでもやっていけるじゃろう」


 【狩聖】トマスが続く。 


「あやつを倒せる者など、我ら以外にいるのかすら定かではないな。そもそも、トカゲ討伐の見事なこと。騎士団ですら、あそこまで原型を留めたまま仕留めるのは困難ぞ」

「何がトカゲよ。どう見てもド……」

「……トカゲ。他者の教えには干渉しない……でしょ?」


 【剣聖】レオンハルトがアルの成果を褒め、アビゲイルが苦言を呈し、【弓聖】フィオーレが戒める。


「あああっ、もう!誰がこんなこと決めたのよ」

「お前だろうが」

「へっ?アタシ?」

「お前が自分が教えてるんだから、余計な茶々入れるなって騒いだんだろうが」


 そう、トマスに指摘されて青ざめるアビゲイル。


「ガハハハハ、ババア、ついにぼけたな!」

「っさい!脳筋!こっちはそんな細かいことばかり覚えてないのよ。だいたい、トマスもそんな昔のこといつまでも覚えてないでよ」

「何でワシが……」

「相手が悪い、諦めよ」


 そうトマスを慰めるのは【聖鍛】バザルトだ。



 ここは、アルフォンスを孫として育てているオイゲンとエリザベート夫妻の家であり、【アルフォンスを見守る会】の集合場所である。


 できた孫であるアルフォンスは、既に就寝中であるが、不良老人どもは時折こうして集まって、アルフォンスに対する意見交換という名目の酒飲みが始まるのだ。


 普段は、いかにアルフォンスが自分の弟子として優れているかの自慢大会なのだが、今日は珍しく建設的な意見が飛び交っている。


 アビゲイルの怒りが一段落したころ、そういえばとバザルトが切り出す。


「しかし、辺境で育てたばかりに小僧は常識がないぞ」

「それはもう仕方ないので、自らで学んでもらうしかないのう」

 

 【勇者】でもあるオイゲンがどこか諦めたように続ける。


「こんな辺境で育ち、師匠がお主らじゃ。常識はとうに諦めておる」

「何故そこでご自分を除かれるのですかな」


 そう追及するレオンハルト。


「そんなら、ウチの下部商会のキャラバンに乗せて王都まで向かわせるのはどうでっしゃろ」


 大陸全土を股にかける大商会【エチゴ商会】の会頭である【聖商】ミツクニが提案する。


「キャラバンなら、村のモン以外と話をする機会やし、そこで金の使い方も学べばよろし。何なら、責任者に気にかけとくよう伝えときまっせ」

「それは良い案じゃ」


オイゲンが前向きに検討する雰囲気になり、方向性が決まりかける。


「……でもアルがいないのは寂しい」 

 

 だがそこにフィオーレが呟き、話をふりだしに戻す。


 不良老人たちの夜はまだまだ続く。


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