2-3 セイブ・ハーピー
「来たぞ!」
ネイヴィー・ハーピーとの邂逅は空中戦とイコールになった。
輸送用ドラゴンは小柄だ。強力なブレスを吐くような攻撃力の高い強者ではなく、二人が乗ったらもう定員になりそうなサイズ。
小回りがきくし安く取引できるし何より手懐けやすい。要するに戦闘向きじゃないってこと。
対するネイヴィー・ハーピーだって本来は戦闘に向かない種族とはいえ、小動物を食らう肉食だ。獰猛な爪は伊達ではない。
そしてその移動速度も存外速い。
「えっ、ちょっ、なんですかあのハーピー速すぎません!?」
「小型のドラゴンでは分が悪いか……!」
ヴィンセントが舌打ちする。角をハンドルのように掴んで巧みに操っていく。ドラゴンを手懐けることもできるなんてさすが私のヴィンセントだ。
「余計なこと考えてる暇はないぞっ」
「なんでわかったんです、かっ!」
がくん! とドラゴンが急降下して舌を噛みそうになった。髪の毛が逆立つみたいな垂直落下。アトラクションなら楽しいかもしれないけど驚きの方が勝った。
真上にはハーピーの大きな鉤爪。回避があと一秒遅かったら危なかった。
「お前は戦力外で暇だろうからな!」
「ひどい!」
「今回は出番無しだ、大人しくしておけ」
「それっておあずけ」
「お前が聞き分けのいい犬なら、あとで褒美をくれてやるさ」
ヴィンセントの挑戦的な笑み。ああ、そんな顔をしないで。惚れ直してしまうから。
「わかりました私超いいこにしてます!」
「よーしどうどう、まずはお喋りな口を閉じておけ」
「はい!」
ヴィンセントの背中にきつく抱きつく。だけどヴィンセントは茶化すような真似はしなかった。私の心臓の音が伝わっていればいい。私は今、すごくドキドキしている。
ヴィンセントが操るドラゴンは高度を取り戻し、再びハーピーと相対する形となった。生かして、血を採取する。血気盛んな眼前のネイヴィー・ハーピーは群青の血を流してなどいない。
「やはり、普通ではないな」
ヴィンセントが呟く。なんですか、と聞きたかったけど今の私はいいこだから質問したい心をなんとか押さえこんだ。
「どこから手をつけてやるか……」
言ってる内からネイヴィー・ハーピーがこちらに猛突進してきた。また私たちを攻撃しようとしているんだろうか。真正面から豪速球が飛んでくるみたいな、いやボールなんかよりずっと生命の危機を感じる。心臓がぎゅっと小さくなった気がした。
ヴィンセントはそれを紙一重のタイミングで避けていく。一歩間違えれば爪に肉が抉られてしまうギリギリさで。
これには何か意図があるんだろうか? 私だって突撃した頃から危険信号を出しているんだから、ヴィンセントが無策ということはないだろうけど。
激しい空中のチェイスはどれくらい続いたんだろう。徐々にハーピーの方に変化が見られた。ギリギリのタイミングで避けていることに変わりはないはずなのに、その鉤爪が飛んでくるまでの時間が開いている、と思う。
ドラゴンは輸送用とはいえ、腐ってもドラゴンだ。その
対してネイヴィー・ハーピーは持久戦には向かないのか、当初の俊敏さにキレがなくなってきている。
「そろそろだな。保護して血を採取する……あいつも難題ばかり押し付けてくれる」
ヴィンセントが手元の素材を空中にばらまき、手をかざす。それだけで簡単な魔術は完成だ。蔓を素材とした巨大な捕獲網が一瞬で展開された。
ネイヴィー・ハーピーはその網に絡め取られる。抵抗する力を大分削いだため、じたばたと弱々しくもがくのみになった。ヴィンセントはドラゴンをゆっくりと降下させ、山頂に着陸。そのままネイヴィー・ハーピーに歩み寄り、ためらいなく翼に手を伸ばした。
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