Chapter2 Navy Blood
2-1 わかってよ共犯者
「ヴィンセントとシャルちゃんは恋人同士なの?」
「もちろん。むしろ挙式まで済みです」
「んなわけあるか。お前は妄想と現実の区別をつけろ」
森の奥深くにあるヴィンセントの工房に客が来ていた。
どっちかと言うと魔術師関係のお仕事絡みの人。もう少し言うとヴィンセントと旧知の仲。要約すると「お友達」だ。
歳はヴィンセントと近いらしく、二十四と言っていた気がする。蜂蜜色の髪、ロマンスグレーの瞳が印象的な男性だ。ヴィンセントが鋭い顔立ちのイケメンなら彼は垂れ目の癒し系イケメン。私はヴィンセント一筋なので靡かないけど。
「うぎゃっはははははは!! 相変わらず正反対だよね君たち。夫婦漫才?」
そんな品のあるお顔立ちからは想像だにしないほど下品な笑い方が特徴だ。温厚な性格であることに変わりはないけれど、結構笑い上戸だったりする。
彼――グレゴリー・レーデは目尻に浮かんだ涙を拭いながら話す。
「あー、やっぱここはいつも賑やかで好きだな。近くにあるなら毎日通いたい」
「押し掛け女房なら一人で手一杯だ、他をあたれ」
「そうですよレーデさん。ヴィンセントのお嫁さんは私って決まってますから」
「お前が入るとややこしくなるからその口を閉じてろ」
ヴィンセントのアイスブルーの瞳が細められた。レーデさん(柔和な顔をした彼の名前が「グレゴリー」なんて似合わない)は変わらず笑い転げたままだが、打ち切るようにヴィンセントがコーヒーを飲み干した。
「それで、グレゴリー。今日は何の商談だ」
「旧友との積もる話をもっとしてもいいんだけどね」
しかしレーデさんは話を蒸し返すことはせず、商人の顔に変わる。
「群青色の血を流す怪鳥、って知ってる?」
「……ネイヴィー・ハーピーのことか」
ヴィンセントには心当たりがあるようだった。
生き物が流す血のほとんどは赤だ。
もちろん例外はあるけれど大概が赤だ。例外で挙げられるのは緑。葉緑素を含んで光合成するとかで、植物と融合した種族に多い。マンドラゴラもその部類だろう。彼らを植物に分類するか、動物に分類するかは学会でも議論される問題らしいけど。
そこからもわかるように、群青色の血なんてレアもレア、そんな生態系がいるのかというくらい。話ぶりから希少性の高いものだと思う。
「そのネイヴィー・ハーピーがね、最近凶暴化しているらしくて。近隣住民に被害が出る前になんとかしようってお触れが出たんだ」
「生死問わずか」
「希少な種だし、なるだけ自然界に戻したいんだけどね。最悪は、って」
レーデさんがコーヒーに手を伸ばしかけて、やめた。
「俺のところにも依頼が来てて」
「お前の」
レーデさんは商人だ。ブローカー、と本人は呼称している。
「そ。
ヴィンセントが顔をしかめた。言動すべてに感情がすぐ表れるのは彼の美徳だと思っている。
「腐れ
「国が生死問わずって出してるからねえ」
「国も国だ。個体数なんて数えられる程度にまで激減しているんだぞ。そんなことも知らずに殺しても構わんとほざくのか」
「国王の一番は国民を守ることだから」
困ったようにレーデさんが笑った。
「それで? 俺にもハーピー狩りを手伝えと」
「逆だよ。ハーピーを守って欲しいんだ」
レーデさんの笑みは毒気がまったくない。だから商談相手はつい分の悪い契約を結んでしまうのだと、ヴィンセントが語っていたのを思い出す。
「ハーピーを生かしたまま、ついでにネイヴィー・ブラッドを採取して欲しいんだよね」
「ああそうだったなお前はそういう奴だった!」
ヴィンセントが笑いながら怒鳴った。
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