第15話 対戦相手は……

 宵闇のフィールドに月が煌々と輝いている。

 日本選抜と規模が桁違いの観客席から、怒涛のような歓声が響いていた。


 実況の外国人が意気揚々と叫ぶ。


『さあ、選手入場です! 日本からはシングルで世界チャンピオンとなったガレオンと、現日本チャンピオンのアルイ! 世にも珍しいチャンピオン同士のペアです』


 一方の解説は冷静だった。


『双方本領はシングルプレイヤーですからね。ペアは勝手が違うでしょうし、どこまで戦えるか見ものですね』


 完全に舐めた口調だったが、僕達はそれどころじゃなかった。現れたロシア代表セルゲイ、その相方がすっぽりローブを被っていて正体がわからなかったからだ。こいつも舐めてやがる。

 更に殺気立つ僕らをよそに、そいつはローブに手を掛けた。


『そしてロシア代表は初出場セルゲイと、おっと、正体が極秘にされていた相方がローブを脱いだ! ……はあっ!? まさか、彼が出場するのか!?』


 観客がどよめく。ローブを勢いよく剥ぎ取って正体を現したのは、元世界チャンピオンのジンさんだったからだ。

 呆気にとられる僕とガレオンに、ジンさんは、よう! と気楽に片手をあげた。その顔は心底楽し気だった。


 実況が吠える。


『な、なんと! 元世界チャンプのジンです! 彼はリアルで事故に遭い現役を引退したはずでしたが、よもや復帰するとは!』


『なんとまあ。規約上、ペアのどちらかが該当国の国籍を持っていれば、相方が外国人でもOKなのでアリといえばアリなんですが……。これは驚きましたねぇ』


 その解説の言葉に僕は動揺した。セルゲイは日本人じゃなくてロシア人?

 ガレオンもショックを受けている。但しジンさんと戦うことについて、だ。


 レフリーの合図でお互い会話の出来る距離に近づく。握手のためだ。

 口火を切ったのはガレオンだった。


「師匠、どうして……」

「アルイと戦いたかったからだよ。日本選抜でも言ったろ?」


 嘯くような軽い調子。でもガレオンは誤魔化されなかった。きっ、と睨み据える。


「嘘つけ。そのためにアルのリアルを攻撃するなんて回りくどい手をあんたが打つわけがない」


 ジンさんは肩を竦めた。


「当たり。戦いたいのは本音だけど、今回の主役は俺じゃない。アルイとセルゲイだ」


 ジンさんは僕に笑いかけた。


「お前のリアルを暴いて追い詰めるような真似して悪かった。でもこれはお前のためでもあるんだぜ?」


 なぁセルゲイと、ジンさんは相方の背中を叩いた。

 セルゲイはコクリと頷いて、口を開く。


『あなたの答えを見せてください』


 リンクで言われた言葉が頭をよぎる。自分でもびっくりするような低い声が出た。


「言われなくても」


 未だ納得していなさそうなガレオンに、ジンさんは肩を竦めてこう言った。


「つまりだ、一位コンビが不甲斐ない万年二位コンビに鉄槌を下しに来たってこった」


 僕とガレオンは一瞬で燃えあがった。

 いうまでもなく、二位とはガレオンのランキングと、僕のスケートでの異名『日本のナンバー2』を指している。


 僕らは声を揃えて言った。

「「絶対にぶっ倒す」」


 ジンさんとセルゲイは鼻で笑った。

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