第14話 VRAB世界選手権

 結局スケ協は処分を撤回した。

 僕はすぐさまゲームIDを再び『アルイ』の名で取った。


 世論はまた少し炎上しかけたが、VRAB日本支部とガレオンが睨みを効かせた上に、僕がスケートの資金繰りに苦しんでVRAB世界選手権に出場しようとしていることを暴露したら思った以上に同情を買って、鎮火に向かっていった。皆美談が好きなんだろう。


 そして、一ヶ月後。血の滲む、なんて生ぬるい形容詞じゃ追いつかないほどの特訓を繰り返し、僕たちは世界選手権に出場した。


 五月二日。VRAB世界選手権シングル部門ではガレオンが優勝し、世界チャンピオンのタイトルを手にした。残念ながらジンさんのランキング一位を奪うには至らなくて、ちょっと悔しそうだ。

 優勝に涙ぐんでおめでとうと寿いだが、ガレオンに「明日はお前がそう言われる立場だぞ」と苦笑されて、ピリリと背筋が伸びる。ジンさんはお祝いに現れなかった。


 そして五月三日。ペア部門。初戦。

 VR上とはいえ、会場のボルテージは高まっており、歓声がビリビリと肌を焼くようだ。


「いけるな」

「もちろん」


 試合会場出入り口で、僕とガレオンは笑い合ってコツンと拳を合わせた。お互いの目には闘志がきらめいている。そうだ、みんな倒してしまおう。

 僕たちはアナウンスのコールに合わせてゆっくりと入場した。

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