第8話 表彰式とネットニュース
晴れ晴れとした人工の太陽の元、表彰式が行われた。
『VRAB日本選抜大会、優勝はアルイ選手です! 大会委員長から、一千万円の優勝賞金が授与されます。おめでとうございます!』
僕は優勝した。正直呆然としている。
でもあり得ないことじゃない。決勝の相手は確かに実力者ではあったけど、ガレオン程じゃなかった。……いや違う、ガレオンが強すぎたんだ。
そして世界選手権の出場枠に選ばれたのは、僕と二位の選手とガレオン。うん、なんか僕だけ場違いな気がする。
僕は戸惑った笑顔を浮かべながら、一千万円の金額が書かれた巨大なボードの片端を受け取った。もう片端は委員長さんが持っている。
そのまま委員長さんと記念撮影。ゲームの中なのでスクリーンショットが撮られているはずだ。
拍手と歓声が観客席から湧きおこる。同じく表彰台に上がっている選手たちも拍手で祝福してくれた。照れくさくて口角が上がった。
しばらくして司会者の女性がにこにことマイクを差し向けてくる。
『おめでとうございます。アルイ選手、優勝のご感想をどうぞ』
こ、困った。特に何も考えてなかった。フィギュアスケートの表彰式じゃ、コメントを求められることなんてなかったから。
なんとかコメントを捻り出す。
「ええと、久しぶりに台乗りできて嬉しいです。応援ありがとうございました」
そして、ぺこりと頭を下げる。ザ・地味! 捻りも何にもないコメントだった。なのに、空気がざわりとざわめいた。
『あら、それは久しぶりに表彰台に乗ったって意味ですよね。今までどこかの大会に出たことがあるんですか?』
記録を見る限り、公式大会は初出場のようですが? と女性は小首を傾げる。
僕は顔をひきつらせた。
(しまった、そこを突かれるとは)
ついフィギュアスケートの大会で乗った表彰台のことを思い出して答えてしまった。
勿論僕には他のVRAB大会の出場経験はない。今回が初出場である。
「あー……、秘密です」
ぎこちなくにっこり笑う。女性もにっこりと微笑み返してくれた。
『秘密ですか。それはしょうがないですね。ありがとうございました』
め、滅茶苦茶焦った。心臓がバクバクと鳴っている。
『それでは会場の皆さま、選手たちに今一度大きな拍手をお願いします』
大きな歓声と拍手。盛大に花吹雪まで舞っていて、華やかな終幕だ。
『以上を持ちましてVRAB日本選抜大会は全ての日程を終了します。本大会で選抜された三人の選手が出場する世界選手権は五月一日から三日にかけて開催予定です。皆さま是非応援してくださいね』
僕はこっそりとため息を吐いた。
(世界選手権、勝てる気がしない。それよりスケートの練習とスポンサー探しを進めたいんだけど)
五月の世界選手権まで、あと二ヶ月。
……どうしよう。
――――
大会翌日。
僕はまた撃沈していた。自室の机にごんごんと額を打ち付けて嘆息する。
大会優勝の勢いのままに、あちこちにスポンサー探しの電話を掛けてみたけど、やはり三千万円の壁は厚い。全部断られた。
これでも負担は四分の三に減ったのに。やはり、元々の金額が大きすぎた。
(ひ、ひとまずスポンサー探しは明日にしよう。スケートの曲探しを進めないと。振り付けの依頼も)
ぐっと背伸びをして、パソコンの電源を入れ、インターネットブラウザを起動する。自動的にポータルサイトが開かれ、トップニュースが目に入ってきた。
(んと、芸能人の結婚とスポーツ選手の引退と。……ん?)
僕はNewのマークが点滅する、とある記事に吸い寄せられてクリックした。
『VRAB日本大会優勝者は謎の初心者!?』
記事の要約は以下の通り。
『VRAB日本選抜大会で優勝したアルイ選手は、有名なトラップエリアを所有するも初心者を明言しており、公式大会は本大会が初。しかし表彰式では過去、大会に出場したことを匂わせており、ネットではその正体を巡って考察が飛び交っている。彼は過去の有名選手なのだろうか』
僕は唖然とした。
(これ僕のことか!?)
そりゃまぁ、ガレオンとの会話で初心者バレしたり、表彰式で昔VRABの大会に出場したと勘違いさせるような事を言ったりしたけど……。
(昨日の今日でこんな記事がでるなんて……)
慌てて僕のアバター名『アルイ』で検索を掛けてみると、出るわ出るわ眉唾物の記事が山ほど。
僕の正体をガレオンより前の元チャンピオンと断定しているものから、本当に初心者で表彰式の発言はブラフだと推測しているもの、果ては、解説のジンさんの秘蔵っ子だと吹聴しているものまで様々だった。
天井を仰いで、ふぅーとため息を吐く。
皆、よほど謎の初心者アバターの正体が気になるらしい。
関連記事をスクロールしながらぼんやりと考える。
(もし、僕のVRABの経歴やチャンピオンの称号に興味のある人が十万円ずつくれたのなら、三千万円なんて一瞬で集まりそう……)
一見突拍子もない考えに、僕ははっと目を見開いた。
それは、……それはもしかしてとてもいい考えなのでは?
僕は我に返ると、勢い込んでVRABの公式HPにアクセスした。
目指すはリアルマネートレードの規約ページだ。
僕の目は暗く輝いていた。
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