第4話 どうにでもなぁれ
三月一日、午前九時半。
とうとう本選の日だ。ゲームに早めにダイブして、リンクの中央でその時を待つ。時間になったら自動的に試合会場に転送される仕組みだ。
でも僕ときたら日が経つにつれ正気に戻り、今じゃ羞恥に震えていた。
しゃがみこんで頭を抱えたくなるのを必死にこらえる。
(い、一ヶ月練習したのに、飛ぶことすらできないなんて)
エアバトルは文字通り、空を飛んで戦う。飛べないんじゃ恥を晒しに行くようなものだ。
(初心者用wikiでは『フライトギアで地上を滑走し、飛行力をチャージして、地を強く蹴れば飛べます』としか書いてなくって。僕は何度もその通りにしたのに!)
どんなに飛行力をチャージしても、どんなに力強くリンクを蹴っても、数秒浮いて地に降りてしまう。これじゃとても試合にはならないだろう。最悪地上で逃げ回るしかない。
他の選手は本当に飛べるのかと、YouTubeで試合の動画を見たが飛べるどころじゃなかった。
空中で四方八方から飛んでくる弾幕を見もしないで、すらりと避けてみせる。あまつさえわざと弾幕に近づき、カリカリと弾幕が身を掠めた時には度肝を抜かれた。これは主にスコア稼ぎに使われる神業らしい。
ちなみにこの神プレイヤーの名前は『ガレオン』。現日本チャンピオンだ。
翻って我が身のふがいなさよ……。
(だ、大丈夫だ僕。リアルの全日本フィギュアスケート選手権で晒した恥を思えば、これくらいなんでもない)
自分を慰めてみるも、その実何の慰めにもなっていなかった。
時間は無常に過ぎていき、光の粒子が僕を取り巻く。転送時間になったようだ。時刻は午前十時。
僕は菩薩のような笑みを浮かべた。
もう、どうにでもなぁれ。
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