お菓子の家のハナシ
お菓子の家のハナシ
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君はベッドの隅っこで泣いていた。今日は君の8回目の誕生日だというのに、お父さんは仕事が忙しくなってしまって、帰りが遅くなってしまった。それで君は1人で夕食を食べなければいけなかった。ケーキはお父さんが買ってくる約束だったから、晩ごはんには間に合わなかった。
僕は君に、とびきり甘いお話をしてあげることにした。
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昔々、あるところに、小さな兄妹がいました。2人は森の中で迷子になっていました。家へと帰る道を一生懸命に探しましたが、帰る家などどこにもないのでした。
ふたりが、ヘトヘトになって木の下に座りこむと、森の奥から甘い匂いがしてきました。匂いにつられて歩いていくと、そこには小さな家がありました。その家は、壁はクッキー、屋根はチョコレート、窓は飴細工、扉はワッフルでできていました。2人が驚いてその家を見ていると、中から黒いフードを被ったおばあさんが出てきました。おばあさんは2人を見て言いました。
疲れているのかい 可哀想に
それから2人をお菓子の家に招き入れその家の、好きな所を、好きなだけ食べていいと言いました。ふたりは、お腹がペコペコだったので喜んでウエハースの床やマカロンの椅子やゼリーのお風呂を食べました。そうしてお腹がいっぱいになると、おばあさんは2人を、スポンジケーキでできたベッドで寝かせてくれました。
翌朝おばあさんは、2人にこの家の好きなところを好きなだけ食べていいから、この家に住まないかと聞きました。実はおばあさんは悪い魔女で、ふたりを太らせて食べてしまおうと思っていたのでした。そんなことは知らないふたりは、毎日お菓子をお腹いっぱい食べる幸せな生活を送っていました。
ある日、2人は思い立って、おばあさんにお菓子の家作りを教えてくれるように頼みました。魔女は、あまり気が進まなかったので、大変だからやめておいた方が良いと2人を止めましたが、根負けして教えることになりました。
実際、お菓子の家作りはつらい仕事でした。2人はどんどんやせていきました。それでもお菓子の家作りを教わっている時の2人の目は、キラキラ輝いていました。
1人前のお菓子の家職人になったある日、2人は森を開いて大きなお菓子の建物を建てました。それはお菓子の孤児院でした。2人は昔の自分たちのような子供たちを集めて、一緒に暮らしました。子供達は、はじめは哀しい顔をしているのですが、甘いものに囲まれて暮らすうちに明るい表情になるのでした。
やがて子供たちは兄妹と同じようにお菓子の家職人になりたいと思うようになりました。魔女のところには子供たちが練習で作ったお菓子をひっきりなしに持って行くようになりました。魔女はもう、子供達を食べようとは思いませんでした。
ある日、魔女は永い眠りにつきました。兄妹は優しいおばあさんの死を悲しんで、妹はクッキーで棺を、兄は飴細工でお墓を作りました。孤児院の子供達は森から1本ずつ花を摘んできて、お墓を埋もれさせました。それからそのお墓からは、お菓子と花の甘い香りが絶えることはありませんでした。
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君の口がムズムズと動いていた。夢の中で君が食べているのは壁のクッキーだろうか、チョコレートだろうか。玄関の扉が開く音がした。手に持った繊細で崩れやすいものを壊さないように慎重に歩く足音がした。
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