ナナシのハナシ

サヨナキドリ

オヒメサマのハナシ

 ナナシのハナシ


 * *


 これはからするのはナナシのハナシ

 きみにはなしたナナツのハナシ

 ねむれぬよるはねむるまで

 かなしいよるはおだやかに

 ぼくに名はなし

 君がのぞめば ずっととなりに


 *  *


 オヒメサマのハナシ


 * *


 ——おはなしきかせて


 君はいつもそうやって僕に話をせがむ。お父さんはもう寝なさいと言うけれど、毎日昼寝をしている君にはまだ早い時間なんだ 。


 ——きかせてあげるから、ちゃんと毛布をかけてね


 君が肩まで毛布をあげるから、僕はその隅っこに膝だけお邪魔する。いろんなお話をするけれど、今日は君が特に好きな、オヒメサマの話をしよう 。


 * *


 むかしむかし、あるところに、貧乏だけど優しくて可愛い女の子がいました。女の子は綺麗好きだったので、いろんな人のうちを掃除して暮らしていました。でも、1つだけ問題がありました。女の子は、優しすぎて、ゴキブリや、ハエや、カなどをやっつけることができなかったのです。だから、女の子のうちにはゴキブリが絶えませんでした 。


 ある日のこと、その国の王子様が花嫁を探すことになりました。王子様は、国で1番掃除の得意な人と結婚すると言いました。そこで花嫁になる人は、お城をひとりでみんな綺麗にしなければいけないことになりました 。


 女の子は王子様と結婚したいと思いましたがお城1人でピカピカにするのは、とても無理だと思いました。女の子が悩んでいると、ゴキブリたちがやってきました 。


 ゴキブリたちは言いました 。


 掃除が好きな女の子 君は何を悩んでるの ?


 女の子は答えました


 王子様とは結婚したいけれど 1人でお城をピカピカになんて きっと私にはできないわ


 ゴキブリたちは言いました


 大丈夫 僕らがそこについて行ってこっそり手助けしてあげる


 そこで女の子はお城を掃除しに行きました。


 実際、ゴキブリよりお掃除のことを知っている生き物は他にいませんでした。ゴキブリたちは女の子が集めたホコリを、1つ残らず食べてきました。油まみれのキッチンも、埃の積もった宝物庫も、女の子とゴキブリたちは、直ぐにピカピカにしてしまいました。お城はあっという間にピカピカになりました。


 王子様は喜んで、女の子のことをほめてくれました。女の子は正直に、ゴキブリに助けてもらったことを言いました。すると、優しい王子さまは言いました。


 それなら この国では もうゴキブリをやっつけることのないようにしよう


 それから2人は結婚して、王子様と、女の子と、ゴキブリは 、いつまでも幸せに暮らしました。


 * *


 はなしを終えると 、君は寝息を立てていた。君が僕の話を最後まで聞いてくれることはほとんどない。でも、それでよかった。話が終わるまでの君の寝顔を見ていられる時間が僕は大好きだったんだ。


 僕は、君の柔らかい髪を撫でた。

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