06
ヘリの機内。
頭にあてられたタオルで、目が覚めた。意識がはっきりしてくる。
「俺は」
「動かないでっ」
女性の声。震えている。
「そうか。君がロープを」
頭にあてられたタオルを、自分で掴んだ。傷にあてる。そんなに、深くはない。ただ、頭部の外傷は血がたくさん出る。しばらくは、止まらないだろう。
「ありがとう。助かったよ」
彼女。まだ、震えている。顔に、血がついてしまっていた。
「ごめん。血が」
そこまで言って。
ヘリがほんの少しだけ揺れた。
抱きつかれる。
「おっ、と」
彼女を抱き抱えた。大丈夫。力は入る。抱き留められる。
外の景色。崩壊した、校舎が見える。瓦礫の山だった。
「わたし。わたし」
彼女。何か、喋ろうとしている。
「きみは、数日後」
口に出して、すぐに後悔した。いま言うべき、ことではない。
「いや。ごめん。きみの話を、聞かせてほしい。きみを、助けたい」
彼女。震え続けている。
「わたし。夜が、こわいの。夜になると、動けなくなって。わたし。ひとりぼっちだったから。夜に。夜になると。部屋に。ひとりだったの。誰もいなくて。わたし」
「そっか。昨日、机のなかの物を整理してたら、夜になったんだね」
「それで。動けなくて。こわくて。ずっと机のしたで。わたし」
「大丈夫。大丈夫だ」
彼女。震えている身体を、なんとか、自分の片手で抱き留めている。
「きみは、数日後。いなくなる。俺は、未来が見えるんだ」
「未来」
「そう。きみの未来も、見える」
「わたし。明るくして。陽気にして。こわいのから、逃げたかった。逃げたかったの」
彼女は。
消えてしまうほうが。
しあわせなのかもしれない。
「大丈夫。もう、あと数日だけ我慢すれば、大丈夫」
ヘリのなかで。
震える彼女の暖かさだけを、感じていた。
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