05

 階段。


 全力で、駆け上がった。


 校舎。すでに、傾き出している。音はない。ただ、ゆっくりと。確実に。校舎は倒壊に向かっている。


「うう」


 彼女。震えが止まっていない。


「もう少しだから。落ち着いて」


 彼女に声をかけながら。


 走る。


 屋上まで。


 あと少し。


「おっ、と」


 蛍光灯が落ちてきた。


 破片で、頬が切れる。


 彼女。大丈夫。


 息が切れてきた。


 頭に衝撃。


「うっ」


 よろけそうになって、なんとか持ちこたえた。いま立ち止まったら、動けなくなる。


「大丈夫?」


 彼女には、なるべく優しく語りかけた。どうやら、天井のコンクリートが自分の頭に当たったらしい。視界の右半分が、赤い。頭を切って血が出ている。彼女。大丈夫。外傷はない。


「ごめん。ちょっと血がついちゃったな」


 震える彼女。


 こちらを心配するような、目。


「大丈夫だ。これぐらい」


 走った。


 屋上。


 ヘリからの通信。光のサイン。ちゃんと、見えた。


 ロープ。目の前に。


 これを掴めば。なんとか、崩壊する校舎から逃げられる。


「あっ」


 身体の力が。


 抜けた。


 背中の彼女を支えきれなくなり。倒れる。


「くそっ」


 頭の傷。身体は動く。ただ、力が入らない。非常に軽い、外傷性脳損傷。


「おい。力を込めろ。なんとかしろ俺」


 ロープを触って、握る。しかし、力は入らない。


 屋上の地面。


 割れはじめた。


「だめ、か」

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