03

「では、よろしくおねがいします」


 警官15名。上空の、ヘリ。旋回と巡回を、開始する。


 無線のスイッチを入れて。


「無線の確認を行います。一番から十五番まで。応答願います」


 応答。十五番まで。


「次に、ヘリ。応答願います」


 ヘリが応答する。光のサインも確認。


「サイン確認しました。俺からはこの回線で連絡します。常時受けられるようにしてください。通信終わります」


 校舎の入口で、ぼうっと、空と校舎を眺めた。


 自分の人生。


 このまま普通に学校を卒業して。

 おそらく、客員幹部待遇で警察に雇われて。探偵のような位置取りで、街の平和を守る側に回る。そういう人生に、なるのだろう。


 自分の未来。見えたことはない。たぶん見えはするんだろうが、結局不安定なものでしかないのだろう。どうでもいいことだった。それに、彼女と添い遂げられない未来が待っているだけ。


 彼女のことを考える度、あの日、女性警官がたくさんいるなかで抱きついてきたあの感触を、思い出す。やわらかく、暖かい身体。そして、震え。


 あの震えを、なんとかしてあげたいと、思う。


 時間はある。校舎の倒壊が確定するまで、あと数日後にはいなくなってしまう彼女を救う手だてを、考えておこう。


 未来は。変えられる。彼女が数日のうちに。だめになるとしても。救う。たとえ、添い遂げられないとしても。


「いや、違うな」


 街を守るものとして。単純に、一人でも多くのの人間の命を救う。それだけ。恋愛感情なんて。いらない。


 電話。


 鳴った。


「しまった」


 切ってなかった。無線に集中したい。電源を切ろうとして。


 また、電話が鳴る。通知も。どうやら、カラオケに行ってるクラスメイト。


 電話に出た。


「もしもし」


 通知内容を見たかと訊かれたので、見てないと答えた。


 クラスメイト。


 彼女が待ち合わせ場所に来ないこと。そのせいで、予約していた場所がわからずカラオケが始められないこと。家にもいなかったこと。


「わかった。俺も見つけたら連絡するよ」


 電話を切った。


 彼女。


 彼女は、待ち合わせに遅刻したり、しない。かならず、誰よりも早く来る。


 警察に電話を入れた。


「俺です。直近12時間の通報記録で、調べてもらいたいものがあります」


 もしかしたら、以前のように夜の駅前でしゃがみこんで保護されているのかもしれない。


 該当する通報記録は、なかった。


「ありがとうございました」


 電話を切る。


 無線のスイッチを入れて。


「ひとつ、確認事項があります。女性。この学校の生徒で、俺のクラスメイトです。夜に駅前でしゃがんでいて保護された子なんですが、近くで姿を見たりしましたか。回答は一番から」


 反応が返ってくる。見ていない。それが1十五番まで。


「ヘリは」


 確認していないという回答。光のサイン。


「サイン確認。どうやら、彼女が行方不明のようです。特に、注意してください。ヘリは、できる範囲で構わないので視野範囲を拡大し近くの人の流れも追ってください。通信終わり」


 考えた。


 彼女。


 いない。


 待ち合わせ場所に来ていない。


 駅前にもいない。


 家は。いや、家にいるならクラスメイトが普通に会いに行っているだろう。


 つまり。


「校舎にいるのか」


 外から入っていく人間を警戒していたが、もしかしたら。昨日の夕方から。彼女は、教室にいるのかもしれない。

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